悪に勝つには悪にならなくてはならない 『悪の紋章』

神保町シアターの佐田啓二特集。
橋本忍脚本、堀川弘通監督の宝塚映画は珍しい。
主演は山崎努、新珠三千代、佐田啓二など。
佐田豊、谷晃、北あけみなど東宝の脇役も多数出演。

話は、朝日新聞に連載された橋本の小説で、麻薬輸送手伝いの嫌疑を掛けられ投獄された刑事の山崎が、真犯人を探して復讐すると言うもの。
最後は、大財閥(西武の堤だろうか)の後継者をめぐる殺人事件であることが分かる。
最後の犯人の佐田啓二や柳永次郎らの狼狽振りがちゃちで白けるが、そこまでのサスペンスは面白い。

特に、逢沢譲のカメラと松山宗の美術が良い。
極めてコントラストが強い白黒画面で、これだけのものは、日活の蔵原惟善の作品を撮っていた間宮義雄以外にはいないのではないか。
宝塚映画なので、ロケが関西で、本物の大邸宅が出てくるが、ここは松山宗の美術のすごさである。

最後、刑事を失職後、興信所の仕事を世話をしてくれた先輩刑事大坂四郎が言う台詞が面白い。
真犯人追求のため、人相も変わってしまった山崎に、大坂は「お前の背中には悪の紋章が付いている」と言う。

これは、後に橋本が脚本を書き、岡本喜八が監督した三船敏郎主演の『侍』で、一味の首領の伊藤雄之助の台詞を思い出させる。
スパイと間違って本当の仲間小林桂樹を三船に殺させたとき、伊藤は言う。
「敵を倒すために、こちらの手も汚れるのは止むを得ない。もっと血を冷たく冷やさねばならない」と。
現実は、まさにそのとおりで、「悪に勝つには、自分の悪にならないと無理」なのである。

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