長谷部安春2本

6月になくなった監督長谷部安春特集2本。
1969年の『広域暴力・流血の縄張(シマ)』と1971年、日活最後の蔵原惟二の監督デビュー作『不良少女・魔子』

『流血の縄張』は、小林旭主演で、親分が加藤嘉、代貸に中丸忠雄、仇役の親分が見明凡太郎、その子分は葉山良二だが、関西から来る悪役が名和宏である。
女優に至っては姫ゆり子と峰京子と他社の役者で、日活の役者は大していない。
当時、日活は東映ヤクザ映画に押され、路線が混乱し役者がいなってていた。

ヤクザの偽装解散に反対し古風な組を守る新宿の加藤、中丸、小林ら新宿の大野木組は、上京した関西連合会(山口組か)と上部組織の会長で金融業に転向した見明、葉山らの挑発に乗り争いを起こす。
そして、騙されて金とシマを取られてしまう。
最後、旭と中丸は、見明のところに殴りこみ、見明と葉山の二人を指殺する。

筋の展開は早く、テンポも快適で、望遠レンズを多用した画面も緊張感があり、新宿の実景をバックにしたロケもいいが、どこか爽快感がない。
なんともスカッとしないのだ。
それは、日活が下降気味で意気が上がっていないところから来ている。
監督や脚本の問題ではない。
この時期、長谷部は年間3から4本くらい撮っていて、日活のエースだった。

『不良少女・魔子』は、夏純子主演のズベ公もので、ダイニチ映配の配給であり、ダイニチ最後の1本で、長谷部安春は藤井鷹史名義の脚本。
夏純子をはじめ戸部夕子、相川圭子らズベ公グループが、やくざの配下になったり、また小野寺昭がリーダーのチンピラの仲間になったりするもの。
最後、夏純子は自分の兄でやくざの藤竜也を刺してしまうなど、ほとんどの人間が傷つけあい、裏切り合う、とてもやりきれない作品である。

相互の裏切りあいと言うのは、当時の日活のスタッフの心情だったのだろうか。
今までどおり映画をやるか、テレビに行くか、後になるようにポルノに行くか、と言ったような選択や混乱。
夏純子は、かなり頑張っているが、迫力がない。
同じ日活末期の唯一のスター梶芽依子は、痩身ながら、鋭い殺気があったが、夏純子にはそのような資質はないので、迫力に欠ける。
むしろ、純情なやさしい女が適役である。
日活最後の作品になったのだから当然だが、配役にしても大混乱と言う感じである。
だが、2本とも、さすが音楽にうるさい長谷部安春らしく、鏑木創の音楽は洒落ていた。
シネマ・ヴェーラ渋谷

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