市川雷蔵の『なよたけ』

福永武彦原作の映画を見たので、久しぶりに同じ「マチネエ・ポエテック」の小説家だった中村真一郎の『わが点鬼簿』を読む。
自慢話が多く嫌になるところもあるが、文学座等にも関係していたので、映画、演劇界の貴重な話がある。
一番興味深かったのは、ある日銀座のバーで市川雷蔵に会った。
すると彼は、加藤道夫の戯曲『なよたけ』を映画化したいと言っていたが、すぐに死んでしまったそうだ。
さすが雷蔵である。
古典の『竹取物語』を元歌とする『なよたけ』は、加藤道夫の作品では、『思い出を売る男』と並ぶ代表作で、抒情性とドラマ性が一体となった傑作。
主人公の透明な姿は、市川雷蔵にぴったりで、是非映画化してもらいたかったと思う。
当時、中村錦之助、石原裕次郎、三船敏郎、勝新太郎等のスター・プロがあったが、なかなか芸術性と娯楽性は上手く両立しなかった。
だが、雷蔵の『なよたけ』なら、上手く行ったと思う。

『なよたけ』のみならず加藤の作品は、日本の現代戯曲史の傑作で、多くの脚本家に影響を与えている。
大変意外だが、唐十郎の諸作は加藤の『思い出を売る男』に大きな影響を受けている。
『なよたけ』を私は、前に新国立劇場で、坂東三五郎の主演で見たが、大変美しい芝居だった。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. ほらさわ より:

    Unknown
    いつも楽しみにコラムを読んでいるものです。ところで、小生、「なよたけ」なる戯曲は浅学にして知らないのですが主人公の持つ透明感と言う言葉で、雷蔵と当代三津五郎を(明示的ではないにせよ)結ぶご指摘、思わず膝を叩く思いです。何故なら小生、長年、この2人の名優に近似性を感じながら、その定義付がうまく出来ず自問自答を繰返していたからです。全くの私事ですが、このコラムで溜飲が下がる思いがしましたので、一言、礼を申し述べたくコメントした次第です。

  2. さすらい日乗 より:

    『竹取物語』です
    加藤道夫(妻は加藤治子)の名作を一言で言うのは恐れ多いのですが、筋を言えば『竹取物語』のできる秘話です。一人の貴族の失恋が生み出したという、アヌイ、ジロドーのフランス近代劇風の傑作です。
    以前は、未来社で単行本がありましたが、多分ないので、図書館で借りて読んでください。

  3. さすらい日乗 より:

    間違えました
    坂東三津五郎と書きましたが、調べると中村橋之助でした。
    確かに坂東三津五郎では、年がいきすぎている。
    橋之助は、悪役も出来るとても良い役者です。

  4. ほらさわ より:

    Unknown
    ご教示ありがとうございます。調べてみると、「なよたけ」は近所の神奈川図書館にあるようなので、今度読んでみます。また、中村橋之助の名優ぶりは音に聞くだけで見たことがありませんが、いつか見られる機会が訪れることを楽しみにまちます。

  5. ほらさわ より:

    Unknown
    この連休に読了しました。自身の読解力の限界だと思いますが、幕毎の物語展開の鮮かさ、そして主人公の彷徨の軌跡、それらは印象深く、声に出して読みながら感情の移入がうまくできましたが、最後の一幕での飛躍はまだ自己の心裡で消化しきれていません。個人の成長を、文字通り劇的に展開するものとして描くことが、どうも読んだだけではしっくりこないのです。やはり戯曲は演出された世界観の中で味わうべきなのでしょうか。とはいえ劇全体を貫くリズミカルな語感は読んでいて楽しめました。