『新道』

フィルム・センターの田中絹代特集。
岡譲二との野村芳亭監督の『婦系図』は、あまり面白くなかったが、昭和11年の五所平之助監督の作品は、とても斬新で面白いのに驚いた。

原作は菊池寛で、西欧的でお転婆な田中絹代と日本的でおしとやかな従兄弟の川崎弘子の話。二人の庇護者で、田中の父親の齊藤達雄は、外交官という設定。
田中は、軽井沢で飛行機好きのエンジニア佐野周二に会い、恋に落ちる。
父の齊藤は、同じ外交官の後輩の山内光との結婚を勧めているので、田中は佐野との仲を両親に言い出せないが、なんと田中は妊娠してしまう。
戦前の話なのに随分と進んでいるのだ。
実は、この菊池寛の小説は、彼が書いたのではなく、愛人で秘書だった佐藤何某という女性が書いたのだそうで、女性の心理が上手く表現されている。
そして、飛行機マニアの佐野周二は、遊覧飛行中に墜落して死んでしまう。
つまり、田中は未婚の母になってしまう。
すると、佐野の弟の上原謙が、赤子を自分の籍を入れてくれる。
そして、ついには佐野周二、上原謙兄弟の因業な母親の岡村文子も、田中と上原の仲を許し正式な同居に至る。

川崎弘子には、新進画家の佐分利信がいたが、彼はフランスに留学してしまう。
佐分利が帰国して再会したとき、佐分利は、川崎の変貌に驚き別れて、川崎は父が進める山内と結婚することを暗示して終わる。
田中、川崎姉妹の下が当時12歳の天才子役高峰秀子。

この田中、高峰と言うのは、戦後小津安二郎の『宗方姉妹』で再度繰り返されることになる。もともと、この田中、高峰姉妹は、宗方という名なのである。
このときは、高峰が若い世代を、田中が古風な世代を代表して演じることになる。
気障な二枚目の山内光は、本名岡田桑三で、戦後は東京シネマ社を興し、記録映画に多数の秀作を作る。
ともかく、「灯火管制」と言った言葉も出てくるが、すべては「モダン都市東京」であり、その徹底的な西欧風ぶりは驚く。
五所平之助は、役者の動かし方、振り付けが大変上手い。

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