多分、4回目くらいだが、途中の夢の場面の意味が初めてわかった。
あの色彩豊かなホリゾントの前で、仲代達矢の影武者が、もう一人の白い顔をした仲代に追われる。
これが意味するものは、黒澤明が従軍しなかった太平洋戦争で死んだ死者たちに追われることなのだ。
彼らに追われて逃げたな仲代は、最後は泥水の中で動き回っているところで夢から覚める。
最後の、武田騎馬隊が、織田・徳川連合軍の鉄砲隊の射撃に全滅し、戦場に人と馬の死体が累々と並ぶのは、言うまでもなく太平洋戦争の戦場の再現である。
そして、そこに一人で来た仲代達矢の影武者も銃撃に倒れ、戦場をさ迷った挙句に、川の水に浸かって死ぬ。
まるで、途中の夢の再現のように。
これは、ある意味で黒澤明の叶えられなかった戦場での英雄的な死の再現なのだとも言えるだろう。
晩年の黒澤明の作品の中で、『影武者』が一番できの良い、面白い作品だと私は思う。
ただ、萩原健一らの硬直した演技がひどく不自然で、少ししか出てこない志村喬と藤原釜足の演技の自然さに、萩原らの芝居の嘘が著しく見るにたえない。
以上について、詳しくは次の拙書をご参照ください。
『黒澤明の十字架 戦争と円谷特撮と徴兵忌避』 現代企画室