「君は御殿女中になれるか」

先週の土曜日に京大で行われた日本映画学会第9回総会に行ってきた。

日本映画学会に入った理由はただ一つ、入会に際して推薦人が不要なこと、会費も年3,000円と安いことである。

昭和28年に、京大法学部四年の大島渚は大手民間企業の就職試験に落ち、法学部が助手を募集していると言うので行くと猪木正道教授に聞かれた。

「君は御殿女中になれるかね、大学に残って研究室に入ることは、御殿女中になることであり、君はそれに耐えられるのか」と。

もちろん、無理とのことで、彼は松竹に入る。

先週の学会では、本当は発表をするつもりだったが、私のPCの送付ミスでできず、今回は様子見になったが、大きな成果があった。

まずは、持って行った本『黒澤明の十字架』が4冊とも全部売れたこと、さらにチラシも全部はけたことで、これで数冊アマゾンでも売れるだろう。

小倉裕介さん、大いに期待してください。

さて、会議終了後に懇親会があり、いろいろと話したが、すでに読んでくれている人もいて、いろいろとご意見が聞けた。

さらに、若手研究者からは、「映画研究のテーマに非常に困っている」との話も聞いた。

理由は、「指導教官の方向性と大きく違うことはできないし、また多くのテーマが先生や先輩によってすでに研究されているので、なにをテーマ、題材にするかが大変だ」と言うのだ。

誠に大学や研究機関で生きていくことは、「御殿女中になること」だとご同情申し上げた次第。

私のようにどこにも属さず、勝手なことを言い、書いている方が精神衛生に甚だ良いことを再確認した週末だった。

翌、日曜日は二女が宝塚で働いているので、見に行こうかと思ったが券は昼・夜とも完売でやめる。

代わりに京都南座の顔見世公演に行く。

市川猿翁、市川猿之助、市川中車の三人の襲名興行と言うことで、大変に高額で、しかも補助席だったが、そのできには大変満足した。

最初の『厳島招檜扇』は、俗に「日招きの清盛」と言われ、厳島造営に際して清盛が、落日を扇で再度戻させたという故事に因む劇である。

文化年間に上演されたものを、私が尊敬する劇評家・作者の岡鬼太郎が、昭和11年に再上演した作品らしいが、少しも面白くない。

『道行旅路の嫁入り』と『二人椀久』は、私が苦手の舞踊劇で何度か睡魔におそわれたので書かない。

『じいさんばあさん』は、森鴎外の短編小説を宇野信夫が劇化したもので、主人公の武士は市川中車で、非常に感動的だった。

彼には、今度猿翁になった父市川猿之助の持つ、やりすぎの面がなく、非常に客観的で、冷静な演技であり大変に良かった。

また、最後の『川面法眼館』での、市川猿之助のケレン芸も、先代よりも遥かに素直で、自然なのには感心した。

帰りは、近鉄で京都から大和八木駅を経由して名古屋に出たが、津で降りる人がたくさんいた。

伊勢神宮に行くのだろうが、京都のホテルでは高校駅伝の強豪高校の連中が合宿で泊っていた。

相当に疲れたが、非常に面白い関西行きだった。

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