映画美術の最高齢者、木村威夫さんが亡くなられた。90歳。
木村さんは、戦前に新劇の美術、伊藤喜朔に弟子入りした後、映画界に入る。1945年の大映作品『海を呼ぶ声』が始まりで、戦後作品には、豊田四郎の名作『雁』、『或る女』などがある。特に、大映のスタジオ3棟をつなげて作った無縁坂のセットの『雁』が凄い。
制作再開され移籍した日活では、多数の作品を残している。
一般的には鈴木清順監督の『東京流れ者』『刺青一代』『けんかえれじい』『花と怒涛』が有名だろう。
確かに、それらは素晴らしいが、私は蔵原惟善監督で、芦川いづみ、アイ・ジョージ、宍戸錠主演の『硝子のジョニー・野獣のように見えて』の、モノクロの画面の美術が大好きである。
言うまでもなく、アイ・ジョージのヒット曲を基にした作品で、少し知恵の足りない女・芦川の愛の遍歴物語である。
北海道の函館が頻繁に出てくるが、その情景が素晴らしい。
実際の風景をきちんと選んで撮影させるのも、美術監督の仕事である。
特に、函館の木造の競輪スタンドが実に美しい。
この映画は、黛敏郎の妻だった桂木洋子の最後の出演作品でもある。
桂木が亡くなったとき、朝日新聞は、無視して何も報じなかった。それは、「憎っくき右翼・黛の妻だったからか」と思ったが、彼女の経歴から見れば実に不当なことだった。
また、この『野獣のように見えて』は、芦川いづみの主演作としては、最高である。
是非、木村威夫追悼上映では、必ず上映して欲しいと思う。