『日本の悪霊』

高橋和巳の小説の映画化。脚本は福田善之、監督は黒木和雄。佐藤慶がヤクザと刑事の二役をやる。
きわめておかしな映画である。
例えば最後のシークエンスは、こうだ。

対立していたヤクザの手打ち式が、保育園の開園式で行われ両組長が並び、記念撮影をしている。
ヤクザ映画のように、着流しを着て長ドスを下げ、土手を歩いていく二人の佐藤慶。
殴りこみに来たと、びっくりする両組長のアップ。
岡林信康が『私たちの望むものは』を歌う映像。
そのフレーズの「私たちが望むものは、あなたを殺すことなのです」
で、爆音が入り、ゴミ捨て場の映像。
煙幕が流れる中に死体が見える。
そして、最後は岡林と高橋美智子(当時、早稲田小劇場の女優)の普通の会話で終わり、なのだ。

この映画は、1970年当時を反映したもので、原作は1950年代の共産党幹部が実は警察のスパイだったというものだと思うが、それを佐藤慶のヤクザと刑事の二役に変えている。
ここでは明確ではないが、ヤクザが実は昔の共産党の生き残りにしている。
全体として、言いたいことは、政治的対立、抗争等があるが、こうした混乱は、岡林の歌に象徴されるように、いずれは若者世代によって解消される、とのようだ。
「本当かね」と言いたくなるが、黒木はそう思っていたらしい。

リヤカーを引いた岡林が街頭でいきなり歌いだすなど、ともかく構成が目茶苦茶。
また、昔の共産党幹部が、舞踏の土方巽という珍しい配役。
ともかく、監督黒木和雄の他、劇作家福田善之のシナリオ、制作が大島渚映画の中島正幸に、何故か漫画家の福地抱介、高橋美智子の他、早稲田小劇場の役者連中など、これほど様々な才能が集まった映画も珍しい。出来がひどいのが唯一の欠点。
一番下の助監督がルポライターの足立倫行、詳細が『1970年代の漂泊』に書かれている。

金は随分となかったらしい。ヤクザの親分の出所祝いの宴会シーンで、出ている料理が枝豆のみなのだから。
黒木としては、劇映画をまだ上手く処理できなかった時代の作品である。

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