パチンコとビリヤード

森繁久弥の自伝はとても面白い本だが、戦前と戦後の日本の社会の変化についても、鋭い観察をしている。
それは、ビリヤードとパチンコの差だという。

私はやったことはないが、撞球は、いかにも道楽者やヤクザ的者が、時間を贅沢に蕩尽しているといった感じである。
だが、パチンコは、小津安次郎の映画でも、会社役員の笠智衆も会社を抜け出してやる、普通人の賭け事で、しかも時間は瞬時で刹那的である。
このビリヤードとパチンコの違いが、戦前と戦後の世相の差であるというのだ。
戦時中を満州という外地にいたからこそ、明確に見えた差異性に違いない。

そこで戦後のパチンコ的リズム、テンポを映画の演技に取り込むことにしたのだそうだ。
そして、役者としては、松竹の脇役河村粂吉の線を狙ったという。
理由は、ああいう脇役は層が薄く、また悲劇、喜劇の双方に出られるからだそうだ。
全くすごい視点という他はない。

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