『或る女』

フィルム・センターの豊田四郎特集で『或る女』を見た。
2月にセンター小ホールでの「監名会」で見て、その時はあまり感銘を受けなかったが、今回はすごいと思った。2月は、疲れていて途中は相当に眠っていたらしい。

成瀬巳喜男の『浮雲』がいわば陰性の、市井にひっそり自分たちだけの世界に引きこもる男女関係の傑作なら、この作品は周囲に対して能動的に働きかけるが失敗してしまう、陽性の男女の傑作だろう。
両作品は森雅之が主人公である。ここでは知的ではなく、むしろいい加減な嘘つきで山師の男を巧みに演じている。また、京マチ子は、世間知らずで自分の欲望のままに生き、最後は破滅してしまう葉子を可愛い女として演じている。
公開当時は、この京マチ子の性行がおかしいとして不評だったらしいが、現在では葉月里緒菜から室井夕月にいたるまで自分を売り出すためには何でもする女ばかりなので、むしろ誠実すぎる正直な感じすらする。
八住利雄の脚本、美術木村威夫、撮影峰重義と素晴らしいが、団伊玖麿の音楽が少々うるさい。

葉子の最初の夫が作家の芥川比呂志、途中で婚約して振られる男が船越英二。
女優も、葉子の母夏川静枝、その友人でキリスト教矯風会長・長岡輝子、親戚の婆・岡村文子、妹・若尾文子などすごい。

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