『死ぬにはまだ早い』

衛星劇場のサスペンス・シリーズ、1969年東宝で公開された西村潔監督のデビュー作品。
脚本は石松愛弘、小寺朝、主演は黒沢年男、高橋幸治、緑魔子、田村奈美、江原達怡らで、その他石田茂樹、伊藤久弥、若宮忠三郎、小栗一也等の東宝系の脇役が出ている。と言うより、ほとんど無名に近いような連中で作ったサスペンスの秀作である。

東京郊外のレストランに、高橋と緑の不倫のカップルが入って来る。二人はホテルで愛し合った直後なのである。
そこには、若い女の子、高齢の医者の若宮忠三郎らがいる。
さらに入って来た男黒沢年男が、「俺は今女房を殺して来た! 11時半に男とこの店で会う約束なので、それまでここにいて来たら男を殺す」とみんなを拳銃で脅す。

そこから様々に展開し、各自の関係の亀裂が暴かれる。
監督の西村は、ジャズなど音楽に詳しい人間だったので、歌の使い方も上手い。
ピンキーとキラーズの『涙の季節』、森真一の『花と蝶』など。
黒沢年男の怒り、いつでも死ねるという気分がすごい。
死は時代の気分だったのだ。
野坂昭如が歌う『マリリン・モンロー、ノーリタン』に象徴される終末感は今考えると非常におかしいが、まさに時代の気分だったのである。
1969年は、1月に東大安田講堂解除事件があり、11月の佐藤首相訪米の前には、ブント赤軍派が大菩薩峠で逮捕された年である。

佐藤訪米の11月は、渥美清・山田洋次の『男はつらいよ』の第1作が公開された月でもあった。
翌11月18日、蓮沼の映画館ヒカリ座に行くと、徹夜で過激派を警備していた「蒲田自警団」の若者が、映画館で寝ながら渥美・山田の映画『男はつらいよ』を見ていた。

作品の最後については書かない。少し分かりにくい気もするが、大して気にならない。
それほど途中までの段取りと描写が上手い。
勿論、最後は黒沢は殺され、全員無事で解放される。

西村は、このデビュー作の次のアクション映画『白昼の襲撃』も良かったが、次第に東宝の中で大した扱いをされなくなり、テレビに行くが上手く行かず、他人の家への覗き行為で逮捕されたりした後、最後は1993年に61歳で海に飛び込んで自殺してしまう。
「死ぬにはまだ早い」とはなんとも皮肉で、自らの最後を予言したような処女作となったことになる。

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