『われ幻の魚を見たり』

衛星劇場の日の当らない名画特集。
1950年、大映京都で伊藤大輔監督、大河内伝次郎主演の黄金のコンビで作られた偉人の伝記映画。
偉人とは、十和田湖でマスの養魚に成功した和井内貞行のことで、私も小学生の頃、偉人伝で読んだ記憶がある。

秋田の十和田湖近くの鉱山で働いていた豪農の息子和井内は、湖に魚がいないのは困る、食料問題を解決しようと湖に鯉を放つ。
十和田湖に魚がいないのは、神の意思だとして、放魚に村人は反対し、妨害する。
だが、「そんものは迷信に過ぎない」とし和井内は、事業を敢行し見事養魚に成功し、鉱山の労働者の食糧となる。
だが、急に鉱山は閉鎖され、売り先がなくなる。

鯉ではなく、保存・加工できる魚としてマスを放魚するが、生物がほとんどいない湖では、共食いして全滅する。
和井内は、別の魚種を求め北海道に行くとき、船待ちの居酒屋で上田吉二郎から、支笏湖で大繁殖している「カバチッポ」とアイヌたちが呼ぶ、ヒメマスの話を聞く。
和井内は、苦労してヒメマスの卵を持ち帰り、孵化させて湖に放つ。
上田吉二郎の話のとおり、5年後にカバチッポの群れが戻って来る。
マス科なので、放漁されたところに回帰する習性があるのだ。
和井内は養魚に成功し、県知事からも表彰される偉人となる。

だが、よく考えると、この和井内の「偉業」は、自然の生態系の破壊以外のなにものでもない。
科学的なことはよく分からないが、十和田湖に魚などの生物がほとんどいなかったのは、湖が高山にあり生物が上ることができず、品種が少ないので、それゆえの食物連鎖の輪ができなかったからだろうと思う。
それを食物のためと言って、ヒメマスを勝手に入れたのは自然破壊と言うべきだろう。

伊藤大輔と大河内伝次郎は、サイレント時代の『国定忠治』にもあるように、何かにとり付かれ、一心不乱に突き進む人物を描くことが多い。
勿論、名作もあるが、これはやや空回りしている感じがした。
大河内の息子で片山昭彦、父が青山杉作、母は東山千恵子、大河内に協力する猟師に三島雅夫と名優が多数出演の大作。
音楽は、深井史郎の荘重な調べである。

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コメント

  1. 【映画】われ幻の魚を見たり

    『われ幻の魚を見たり』(1950年・監督:伊藤大輔)
    『忠治旅日記』をはじめ時代劇の名匠して知られる伊藤大輔監督だが、ワタシが鑑賞したのは『王将』(1948年)と本作のみで、残念なが