衛星劇場の時代劇傑作選の一つ。
傑作とは思えないが、監督が丸根賛太郎、撮影藤井清美、音楽高橋半、主演小堀明男、月形竜之介、夏川静枝等の各社の寄せ集めのスタッフ、キャストで、東宝が配給、宝塚映画の作品。
丸根は、大映にいて稲垣浩等に付いた人で、敗戦直後の阪東妻三郎の主演の名作『狐がくれた赤ん坊』を作った監督で、稲垣風の叙情性とテンポのある人で、これもなかなか上手く見せていた。
筋は、処刑された水野十郎佐衛門(小堀が水野と息子の二役)の子が、本来なら長男も死罪とのことで、江戸を去って地方に逃げる。
十数年後、小堀が幼くして別れた母親の夏川を探して、江戸に来る。
彼は、僧門に入っていて、中国にも渡って修業し、少林寺拳法も取得してきたとのこと。
まるで、『座頭市 破れ! 唐人拳』の先駆である。
いろいろな紆余曲折はあるが、小堀は母の夏川に再会できる。
ただし、夏川は悪人の江川宇礼雄らに長年捕らえられていたことから気が変になっていて、小堀を息子と分からない。
最後、殿様の前で、三味線、琴、尺八の三曲合奏の御前演奏が行われる。
尺八の名人でもあった小堀は、陰演奏で尺八を吹く。
とその音色に夏川が父水野を思い出し、息子の小堀も分かる。
そして、ハッピーエンド。
原作は、村上元三であるが、言うまでもなく村上は、長谷川伸の弟子である。
長谷川の作品には、二つの大きなモチーフがあり、一つは「別れた母親との再会」、そしてもう一つが「音楽」である。長谷川の多くの作品では、重要な切っ掛けが、主人公等が奏でる歌や曲で、誰かが記憶を呼び起こし、ドラマが大きく展開する、と言う風になっている。
この村上も母との再会、尺八の音色、と長谷川伸のモチーフと同じものを持っている。
因みに、あじろ笠とは、僧の姿の小堀明男が被っている笠のことだそうだ。
1954年公開作品