『華岡青洲の妻』

有吉佐和子の小説の映画化、文学座で上演されていたためだろう、ナレーションが杉村春子になっている。
市川雷蔵の華岡青洲の妻加恵は、若尾文子、雷蔵の母親すぎは、高峰秀子。
若尾と高峰の、青洲の麻酔薬の人体実験をめぐる意地比べである。
青洲の二人の妹が、渡辺美佐子と原知佐子、若尾の父は内藤武敏、母は丹阿弥谷津子、乳母が浪花千栄子と手堅く脇を固めている。
芸術祭参加作品で、相当に力が入っているが、この1967年は東宝の『日本の一番長い日』が受賞する。

この作品で監督の増村保造は、黒澤明の映画『赤ひげ』を意識していたように見える。
原作が、山本周五郎に対して有吉佐和子というベストセラー作品。
三船敏郎の超人のような医者に対し未熟な医師の加山雄三は、美しい母の高峰秀子に憧れ、追いつこうとする若尾文子と『赤ひげ』に対照できると思う。

優秀な外科医華岡青洲は、蘭学に記載されていた麻酔による外科手術のため、朝鮮アサガオの花から麻酔剤を作り、当初は犬、ネコで実験するが、ついに人間で試すことになる。
すると先ず、高峰が、さらに若尾が実験台になる。
どこまで麻酔剤の量を増減するか、人体実験しか方法がなかったのだ。

最後、麻酔剤の調整ができ、青洲は、世界最初の麻酔による乳がんの手術に成功するが、若尾は盲目になってしまう。
原知佐子に続き、ガンで死んでしまう青洲の妹の渡辺美佐子は、言う。
「母と妻の争いを利用して人体実験をした」青洲たち男はずるい、と。
まるで、現在の日本でもある、男性による女性支配を批難しているようだが、増村が描いているものは少し違うと思う。
むしろ、二人の女の意地の争いのすさまじさに、市川雷蔵は、ただ見ているだけで、たじろいでいるようにさえ見てくる。
最近の近代史の研究では、日本の近代社会では、女性は必ずしも弱く、低い位置にいたのではなく、家にいてすべてを密かに支配、管理するものだったとされている。
ここもそのように見える。
女性の人間的解放を一貫して描いてきた増村保造作品としては、比較的穏健だが、その方向性は変わっていないと言うべきだろう。

大映でもずっと東京で、時代劇とは無縁だった増村が、きちんと時代劇を撮れたのは、さすがに大映京都撮影所である。
それには、助監督宮島八蔵さんらスタッフのお力があったようだ。
林光の音楽が重厚で美しい。
衛星劇場 高峰秀子特集

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