中村とうようさんの言葉

中村とうようさんから聞いた言葉で忘れらないものの一つは、1990年4月、簡保ホールでヌスラット・アリ・ハーンの最初の単独公演が終わったときのことだ。翌年に、WOMAD横浜が行われ、このときはヌスラットも参加する予定だった。実は、その後パキスタンの国内事情で、1990年はヌスラットは来ないことになったが。

このとき、とうようさんは、ヌスラットの公演の大成功についてこう言っていた。
「なんでも最初のお客さんは、最高なんだ。
ロックもレゲエも、最初に来てくれるお客さんはとても温かくて、きちんと聞いてくれるいい人ばかりなんだ。
それが、流行になると、悪乗りする者など、ひどいのが来るようになるので、いつもがっかりしてきた。
大体そういうものだが、ワールド・ミュージックがそうならないように祈るんだけれどね」

このときは、大して気にもしなかったが、この言葉は、その後、そして現在の日本のポピュラー音楽の推移を的確に予言していたことになる。
私は、いつも演劇において重要なのは、良い観客の存在だ、と言って来た。
それは、音楽においても同じなのだろう。
なぜなら、それらは大衆文化である限り、勿論創作するのはアーチストだが、それは半分で、後の半分は観客、大衆が作るものだからである。

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