『50万人の遺産』

三船敏郎唯一の監督作品だが、「本当にこのシナリオでOKして撮影に入ったの」というできの悪い脚本。
黒澤明の「良いシナリオでもひどい映画ができることがあるが、ひどいシナリオからは、良い映画は絶対にできない」という言葉の見本のような作品。
多分、この程度の脚本で、撮影が行われたのは、三船の人の良さで、菊島隆三に文句が言えなかったからだろう。
菊島隆三は、本当に書いたのだろうか、それとも忙しかったので、適当に初稿を書き、そのまま撮影してしまったのだろうか。
ともかく、細かいところのおかしさを上げていたら、きりのない作品。

戦時中の山下奉文将軍がフィリピンに残した秘密の金貨を探しに行くと言うのだから、アクション映画と思うだろうが、これが全くアクションがなく、ひどく真面目な映画なのだ。
アクション映画として必要な、リズム、テンポ、あるいは大げさなこけ脅しや、時にはオーバーな表現と言ったものは、一切なく、成瀬巳喜男の映画のように淡々と異常な話が進行する。
第一、フィリピン・ロケはしたらしいが、植生などから実際に映像として使われている現場は、フィリピンではなくほとんど日本であり、宝塚など関西でのように見える。

もし、この一種の「トンデモ映画」に意味があるとすれば、三船敏郎がひどく生真面目で、融通の利かない不器用な人間だと言うことが明確に分かることだろう。
冒頭で、神戸の鉛筆会社の課長をやっている三船が、事務員の林美智子が、用紙に何か書き損じて捨てると、叱った三船はそれを拾って伸ばし、メモにする。これなどは、三船自身そのものである。
金貨がある森林地帯には原住民イゴロットがいて、浜美枝。残留日本兵で浜美枝と結婚したのが土屋嘉雄で、この二人は黒塗りの原住民スタイル。
ラストで、中村哲らの不良外人がいきなり出てきて、三船らを全滅させてしまうなど、唐突なのにも非常に驚いた。
阿佐ヶ谷ラピュタ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする