中村とうようさんについて、いろいろな見方があるだろうが、音楽に対しては、とても正直な人で、そこが最大の魅力だったと思う。
思い出すのは、1988年9月に東京ドームで、アムネスティー・インターナショナル日本支部の主催で、『ヒューマンライツナウ・コンサート』が開催されたときのことである。
このときは、日本で初のチャリティー・コンサートで大変なメンバーだった。
ブルース・スプリングスティーンをメインに、ピーター・ゲイブリエル、トレシー・チャップマン、ユッスー・ンドゥール、坂本竜一、宇崎竜童らだった。
3時頃に始まって竜童組等のどうでも良いのが終わり、夜になり、ユッスーも終わってブルース・スプリングスティーが登場した。
するとそれまで席に座っていた人が、ほとんど全員、立ってステージ下に殺到した。
それを見て、とうようさんは怒った。
「何だ、みんなブルース・スプリングスティーンが出たら、前に殺到して、彼しか見に来ていないのか!」
「とうようさんは、嫌いなんですか」と聞くと、
「勿論、俺だってスプリングスティーンは好きだけどさ。ユッスーのときは黙っていて、一体何を見に来ているんだろうね!」
この正直なお怒りは、実におかしかった。