『武士の家計簿』

森田芳光の急死での特集。
江戸末期の武士の生活を描くもので、「へえー」という面白さはあるが、それ以上ではない。
森田の監督作品は、取り上げ方がいつも少し変わっていて、「あれ」とは思うが、そこを出るものではなかったと私は思う。

原作は、歴史家の磯田道史で、時代考証は正しいのだろう、下級武士の生活や城での勤務実態が詳細に描かれているのはすごい。
有名な話だが、黒澤明が、1954年に『七人の侍』を作る時、当初は普通の武士の一日を描くものだった。
そこでは、武士が些細なことから過失を起こしてしまい、最後は切腹する構想だった。
だが、当時は武士の生活の詳細、例えば「一日二食だったのか、三食だったのか」というような些細なことも不明だったので、その構想は放棄された。

もっとも、黒澤の構想した時代は、多分江戸初期から中期で、この映画の江戸末期とはかなり違うと思われる。
江戸も中期までは一日二食が普通で、三食になったのは、後期であるようだ。
さて、武士とは言っても、算盤で藩に仕える家の当主中村雅俊の息子堺雅人は、商家の娘仲間由紀恵を嫁に迎えて家を継ぐ。
だが、彼が算盤を入れて家計を調べると大変な累積赤字だった。
中村は骨董趣味、妻の松坂慶子は着物道楽で、家計は大変だったのだが、それを中村らは、米の藩への納入に際する監査に手心を加え、その分前を入れ自分の家に補充していたのである。
それは実は、藩全体がそうした仕組みになっていた。
だが、正義漢の堺はそれを暴き、是正させようとし、一時は田舎に左遷させられようとするが、藩の方針転換で救われ、それを契機に出世する。
幕末になり、尊皇佐幕論の中でも、藩は当初の佐幕から転換し、上手く維新へと渡っていく。

ここで描かれる武士の生活は、江戸中期以降は、武士はサムライではなく、完全に藩という地方政府の事務官僚になっていたことを明確に表している。
その意味では、江戸時代は、明治維新以降の日本の官僚制度を準備したと言え、それは明治以降の近代化に大きく寄与したことになると言えるだろう。
いずれにしても、江戸末期の日本が、文化的に極めてレベルが高く、祖母の草笛光子が和算の本を愛読しているなど、消費・娯楽文化も繁栄していたことをきちんと描いていることは、評価できると思う。

森田芳光は、C型肝炎だったそうで、C型肝炎は、海外等で食事から感染することが多く、長い間潜伏し、ある日増殖した時は、もう手がつけられないようだ。
その典型が寺山修司で、彼は大学時代にネフローゼになり、もうじきダメだと宣告された。
その時、当時は最新の治療法だった血液製剤を使い奇跡的に回復した。
だが、そこには肝炎ウィルスが混入していて、30年後に発病して、わずか数週間で急死してしまったのである。
まことにウィルスの力は、バカにできないものである。
森田監督のご冥福をお祈りする。
衛星劇場

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コメント

  1. けん より:

    Unknown
    TBさせていただきました。
    またよろしくです♪

  2. 武士の家計簿

    監督 森田芳光
    出演 堺雅人
        仲間由紀恵
        西村雅彦
    幕末の武士の倹約暮らしを描いた作品。
    俺にとっては…
    大好きな堺雅人VS苦手な時代劇もの。
    勝敗は引き分けって感じかな☆
    全編に渡って淡々としていました。
    決して面白くないわ…

  3. 武士の家計簿  監督/森田 芳光

    【出演】
     堺 雅人
     仲間由紀恵
     松坂 慶子
     中村 雅俊
    【ストーリー】
    会計処理の専門家、御算用者として代々加賀藩の財政に携わってきた猪山家八代目・直之は、家業のそろばんの腕を磨き、才能を買われて出世する。江戸時代後期、加賀藩も例にもれず財政状況は逼迫…

  4. ampa より:

    Unknown
    C型肝炎は血液を媒介にのみ感染します。輸血や血液製剤、C型肝炎患者の血液に接触したときのみ感染します。エイズウイルスと同じです。海外で食物から感染することはありません。ちなみに小生の家内もC型肝炎から肝硬変、肝臓がんと進み死亡しました。

  5. さすらい日乗 より:

    そうでしたか
    それは知りませんでしたが、大変でしたね。
    奥さんのご冥福を心からお祈りまします。

    さて、森田はどうして肝炎になったのでしょうね、やはりセックスでしょうか、本人は分かっていたようで、酒も飲まず、疲労しないように精進していたそうですが。