ラピュタの今月は、記者物語。
1964年の松竹大船作品、監督は大槻義一、木下恵介の弟子的な人で、まじめで地味な作品の監督だった。
話は、横浜の暴力団のボスが殺され、その犯人は誰か、というもの。
殺人の時にいた元敏腕記者が加藤嘉で、彼から情報を貰った後輩が園井啓介、新聞社名は、いつもの毎朝新聞。
加藤嘉は、あることからアル中状態になっており、安酒場で酔って踊る。
そこは「国際酒場」となっており、明らかに根岸屋がモデルだが、セットのようだ。
実際に根岸屋で撮影した場面が出てくる映画は、日活の『新宿アウトローぶっ飛ばせ』だけなはずだ。
黒澤明の『天国と地獄』の麻薬の取引のシーンもセットである。
加藤の娘が桑野みゆきで、PSすなわち、ポート・サービスの乗務員。
ポート・サービスは、本来通船業で、沖合の本船に乗務員や物資を運ぶものだが、遊覧船もやっていて、桑野は、その遊覧船の職員。
桑野の弟で、殺されたヤクザの運転手をやっているのが、竹脇無我。
園井啓介と共に、警察で捜査をする刑事が、吉田輝男で、射撃の名手になっている。
役者としては、刑事に松村達雄、別のヤクザのボスで植村謙二郎、殺されてしまうシルク・ホテルのボーイで山本幸栄が出ていた。山本は横浜でアマチュア劇団葡萄座を作った人で、この時期の松竹大船映画の脇役で沢山出ている。
結構、山下町や元町、関内等の横浜の中心部をきちんとロケーションしていて、その意味では、この少し前に松竹が作った野村芳太郎監督の『東京湾』に似た感じである。根岸線の下は、まだ運河で市庁舎脇には、鉄の港橋が架かっている。桑野と園井がボーリングをするが、山下公園前にあったシーサイドボールで、今は郵貯会館になっている。その他、ホテルが出てくるが、今はないシルク・ホテルである。
松竹にも、やはり野村監督の『張り込み』などのサスペンスの傑作があったが、それはこの辺で尽きたようだ。
やはり、犯罪物は、本質的に城戸四郎氏のお気に召さなかったのだろうか。
最後、犯人が関内駅から根岸線に乗って逃亡し、多分新杉田駅付近で、さらに海岸に向かって逃げる。
そこはまだ埋立地。
現在は、東芝の事業所になっているところで、当時はやっと埋め立てが終わったところだった。
因みに、根岸線も、その頃は大船駅ではなく、まだ磯子駅までだったと思う。
しかし、同時期に日活では、すでに鈴木清順の『野獣の青春』や中平康の大傑作『泥だらけの純情』が作られているのだから、松竹大船の時代へのズレは相当なものだったと思う。
阿佐ヶ谷ラピュタ