今福龍太連続講座 「ブラジリアン・ハリウッド 『It’s All True(すべて真実)』」

今福龍太先生の解説を聞き、オーソン・ウェルズが1942年にブラジルに行き、映画を企画・撮影したが、未完に終わった作品『It’s All True』を上映するイベントがあった。
場所は、かつての霊岸島、新川のギャラリー・マキで、マンションの裏側は、隅田川。

アメリカは、伝統的に中米の国々は、自分のエリアだと思っていて、ホンジュラス、ニカラガ、パナマ、ドミニカ等で自由に自国に有利な政策をとって来た。
その一つが、チキータ・バナナで有名なユナイテッド・フルーツ社で、同社は、中米で鉄道、道路、港湾等の施設を自社で建設、所有し、その結果地域を支配して来た。
だが、1939年、ドイツなどの枢軸国と第二次世界大戦が始まると、南米が問題になった。
南米の大国ブラジルはポルトガル、アルゼンチンはスペインと共に旧宗主国は、枢軸国側で、さらにブラジル東部には日本人、さらに南部にはイタリア移民も多くいたからである。
そこで、アメリカは、それまでの善隣外交をさらに進め、文化芸術において南米との交流を促進することになった。

その中心となったのは、ネルソン・ロックフェラーで、ラジオ番組で親交があったオーソン・ウェルズがブラジルに行き、映画を撮ることになった。それが、『It’s All True(すべて真実)』である。
作品は、三つの部分に分かれている。

最初は、メキシコでの農民と教会をめぐる短い部分で、ここはどのように展開されるのかの手前で終わっている。
二番目が、1942年のリオのカーニバルの部分、ここはカラーで撮影されている。
最後が、ジャンガディラというブラジル北東部で、木製の小さな筏で沖合に出て、魚を獲り、売って生計を立てている貧困な沿岸漁民の姿、ここはモノクロで撮影されていている。

中では、最後のジャンガディラのところが圧倒的な迫力である。
大木を切り出し、木を組んで筏を作るリズミカルな映像。
若い漁師が村の娘と結婚する件の神話的な件。
若者は、沖合に出て漁をするが、大風で転覆し、新婚の妻は、未亡人になってしまう葬祭の長い列。
そして、こうした零細な漁民の実情をブラジル全土に訴えるために、北東部から筏でリオデジャネイロまで航海した1942年の撮影時の直前に行われた実話の再現。

出演者は、実際の漁民で、その深い表情が強い説得力を持っている。
こう書くと、その少し後に作られたイタリアのルキノ・ビスコンティの傑作『揺れる大地』との類似性を感じるに違いない。
この二作の趣旨と作風は大変良く似ている。
だが、ビスコンティが、このウェルズの作品を見たはずはないのである。
なぜなら、ウェルズ作品は、予算の打ち切りから撮影されたのみで、公開されなかったからである。

ブラジルの歌姫カルメン・ミランダの映像も上映され、ブラジルとアメリカの映画、音楽の交流の多面的な姿をみることができた。
大変刺激的なイベントであった。
4月日 午後2時に始まり、結局8時頃までいた。
6月頃には、4回目が行われる予定だそうだ。

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