『呼吸 透明の力』

勅使河原三郎の新作が、今横浜で行われている『ダンス、ダンス、ダンス、at YOKOHAMA2012』の一つとして行われた。
神奈川芸術劇場の大ホールなので、ダンスの会場としては、少々大きすぎるが、このイベントに協賛する神奈川県には他に適当な会場がなかったためだろう。

内容は、とくに目新しいものはなく、相変わらずよく動く勅使河原の手足には驚嘆する。
近代以降のダンスの主題の一つは、人間の体の飛翔、跳躍で、どれだけ引力に逆らって上に跳躍できるかで、その象徴が、かのニジンスキーだったことは言うまでもない。

さて、田んぼを這い蹲る水田農耕民の日本人にとって、上部への上昇は最も苦手とするところであり、これは熱帯の叢林を駆け抜けていた西アフリカ人の子孫であるジャマイカ人の敵でないのと同じである。
そこで、勅使河原が編み出したのが、手の自由な動きだったのだろう。
彼の手は、頭の脳に命令されたのではなく、まるで手そのものが、自由に意思し、動きたいから動いた、という風に俊敏かつ自在に空間を切り裂いていく。
それは、薄暗い照明の効果と相まって、時として残像のようにさえ見えた。

約75分の作品は、いくつかのシーンに別れ、いつものように無伴奏の器楽曲、壮大なシンフォニー、無機質なハードロック等の音楽で踊られた。
だが、今回驚いたことは、スコット・ウォーカーの『ジョアンナ』が使われたことで、勅使河原三郎にこうした抒情的な面があったのかと思った。
現在、様々なところで彼が行っているワーク・ショップのメンバーも随分出たようだが、結構様になっていたのは、まことに喜ばしいことである。
神奈川芸術劇場大ホール

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