『暗黒街最大の決闘』

井上梅次は、ときどき非常に驚くような良い作品を残しているが、これもそうだった。

東映に来て、最初のアクション映画で、主演は鶴田浩二と大木実、それに高倉健、佐久間良子、さらに東映の重鎮薄田研二が出るなど、オールスター・キャストの大作である。脇役も、南広、井沢一郎らも出ているが、特筆したいのは、高倉の伯父で佐久間の父親、皆からは「隠居」と呼ばれている植村謙二郎である。彼は、大映、日活の悪役で有名なのは、黒澤明の映画『静かなる決闘』での性病病みギャングだが、ここでは渋い古い任侠道に生きる善人役を好演している。

映画は、大きなクラブで半裸の男女が激しく踊っているシーンから始まる。そこに着流しやくざの薄田らが乗り込んできて、クラブのオーナーで、愚連隊上がりの連中大木実らと対決する。

タイトルが終わると、ニューヨークになり、外人が英語で会話しているが、一人だけ鶴田浩二がいる。

大木実からギャンブル事業の提携と資金の援助を求めて来たとのことで、5億円を融資し、その監視役に鶴田を派遣することになる。

鶴田と大木は、アメリカでギャンブラー生活を共に過ごしたこともある親友なのであり、再会を喜び合う。

筋書きは結構複雑だが、一番驚いたのは、日本のヤクザ薄田研二の息子で、薄田の病死の後、組をつぐ高倉健だが、実は鶴田も、薄田の子で、古臭いやくざを嫌ってアメリカに行ったということ。ここは、途中まで伏せてあったので、聞いてびっくりだった。

要は、ヤクザと愚連隊の対立であり、またヤクザの中で、悪役の安部徹との対立である。

この辺の感じは、山下耕作の傑作『総長賭博』の骨肉相争う悲劇によく似ている。

また、鶴田と大木の二人のやり取りのシーンになると、バックに「クレメンタイン」が流される。音楽は伊部晴美。この作品は、ジョン・フォードの『荒野の決闘』からヒントを得ているという示唆なのだろうか、私にはわからなかった。

阿佐ヶ谷ラピュタ

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