抜け殻のような戦後の山本嘉次郎作品 『愛の歴史』

1955年、山本嘉次郎監督、鶴田浩二、司葉子主演のメロドラマで、当時松竹が大ヒットさせていた『君の名は』から明らかに発想された映画。

原作は、田村泰次郎で、婦人雑誌に連載されたものとのこと。

羽田空港に、香港からギャングの鶴田浩二が来て、富田仲次郎らの日本の連中に迎えられるが、鶴田は実はある女性を探しに来た。

戦地の中国で、鶴田の兵士と看護婦の司が、敵陣近くに包囲されて取り残される。

もう死ぬしかないと二人で共に自決しようとした時、日本の戦闘機が飛来し、同僚の藤田進も来て、二人は助かるが、その後バラバラになっていた。

鶴田は、残った中国で海賊の一味に入れられ、そこから香港のギャングになっていたが、これは鶴田の台詞で語られるだけ。

孤児の司葉子は、叔父で政治家の御橋公の家に居候し、病身を療養していた。

司も鶴田の帰還を待っていたが、なかなか戻って来ないので諦めて、政略結婚で、土建屋の息子藤木悠といやいやながら結婚する。

鶴田が司葉子のいる家や、藤木との新婚旅行の宿泊先で出会ったり、すれ違ったりする典型的なメロドラマ。

携帯電話があれば、すべて解決することばかり。

最後、鶴田は、自分たちの金を、倒産しかかっていた藤木悠の会社の再建のために役立ててくれと、司にあげ、ギャング一味と共に逮捕される。

自分の罪、つまり司葉子の純潔を奪った償いに1億円を司葉子に与えるのは、山本嘉次郎の贖罪意識の反映のように見える。

山本嘉次郎は、戦時中は『ハワイ・マレー沖開戦』『加藤隼戦闘隊』『雷撃隊出動』等の戦意高揚映画を作り、大ヒットさせていたのだから。

だが、いかにもいい加減であり、場内はしばしば爆笑が起こった。

東宝に、このようなセンチメンタルなメロドラマは似合わないのである。

そして、一番良くないのは、山本嘉次郎以下のスタッフが、メロドラマを作ることを一生懸命にやっていず、適当に作っているように見えることである。

松竹大船の、大庭秀雄以下のスタッフは、少なくとも『君の名は』の第一部は、真剣に作っていた。

円谷英二作の東京大空襲の特撮もすごい迫力である。

やはり、戦後の山本嘉次郎は、抜け殻のようなもので、それに対して戦時中の戦意高揚映画には、本気で作っていたように思う。

 司葉子が、療養している高原のサナトリウムの町の警察官で天津敏が出ていた。

鶴田浩二と手錠で手を繋いで、道を二人で歩くのだが、この二人は後に東映のヤクザ映画で、善玉のヤクザと悪玉の新興ヤクザで敵同士となる。

阿佐ヶ谷ラピュタ

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