映画史上の名作メリエスの『月世界旅行』とそれに関する記録映画が上映されるというので、神奈川公会堂に行く。
『月世界旅行』は、フランスのジューヌ・ベルヌの小説を基にした映画で、6人の天文学者が巨大な砲弾に乗って月に行く話。
監督のメリエスは、元は奇術師であり、様々な技法を使った映画を作ったが、中で一番有名なのは、この作品で特撮映画の元祖でもある。
この『月世界旅行』は、通常はモノクロ版だが、着色によるカラー映画もあり、2002年にスペインでカラー版が発見された。
だが、それはフィルム同士がくっついてしまった非常にフィルムが傷んだものだった。
それを少しづつ剥がし、一コマづつパソコンに取り込み、そこから欠落部分をモノクロ版で再生し、色が消えたり、変色している部分は補正して修復した。
大変に時間のかかる作業だが、その結果に修復された作品は、完全とは言えないカラーの滲んだような感じが、逆に幻想的な世界を作り出していた。
特に月に無事着くと、そこには異人種がいて、彼らに捕まってしまう。
この月世界の異人種は、人間というよりも虫や動物のように見え、当時の欧州人のアフリカ、アジア等への偏見と想像を思わせて大変興味深い。
だが、この幻想性の面白さは、新東宝での低予算を逆にとり幻想的な怪談映画を作り出した中川信夫の名作『東海道四谷怪談』のようなものである。
この中川作品の対照的なのが、小林正樹監督、宮嶋義勇撮影のリアリズム描写という間違いの『怪談』である。
怪談映画とは、所詮は化物映画であり、それをリアリズムで再現するというのは、大きな誤りなのである。
その意味でも、特撮による幻想作品の意味を改めて教えてくれた。
さて、上映会を主催した横浜キネマ倶楽部は、その名を前から聞いていたが、実際に見に行ったのは今回が初めてだった。
そして挨拶で、この会は、約10年前の横浜の名画座の関内アカデミー等の運営会社の倒産と労働争議から産まれたことを知った。
関内アカデミーは、関内駅のすぐ近く、ビルの4階にあった小さな映画館だったが、主に洋画で、記録映画などの珍しい作品も見た。
今は、レストランになっているようだ。
神奈川公会堂