新宿の紀伊国屋サザン・シアターで、相良敦子作、児玉庸策演出の『無欲の人 熊谷守一物語』を見る。
私は美術には不案内なので、熊谷守一についても名前しか知らなかったが、非常に反世俗的な人だったようだ。
この反世俗性は、ここでは無欲とされているが、その徹底ぶりは、ほとんど信じられないほどで、「本当なの?」としばしば聞きたくなる。
彼をめぐる美術科の同僚、さらに音楽科の信時潔(『海ゆかば』の信時潔である)の全面的な熊谷への金銭的援助によって、熊谷は次第に世に出てゆく。
この共同体的な相互扶助については、別にホームページに書いたので、それを見ていただきたい(http://sashida.net/ ジャンルの垣根を越えて)。
劇としては、少々平板であり、劇的な盛り上がりに乏しいが、作者たちの言いたいことはよくわかった。
それにしても熊谷(千葉茂則)という人は非常に面白い。
自分の妻や子供たちに、自分のことを「モリカズ」と呼び捨てにさせていたというのだ、フェミニズムの先駆者とも言うべきだろうか。
最後にスライドで、晩年の彼の作品が写されたが、非常にイラスト的で、平面描写を目指しているように見えた。
その意味でも、非常に現代的な人だったのだろう。