『蝉しぐれ』の市川染五郎は、昨年の『阿修羅城の瞳』にまして良い。昔、「中村歌右衛門は松竹の宝」と言われたが、染五郎は日本の宝である。
映画『蝉しぐれ』は、脚本・監督が黒土三男なので、一人よがりの作品かと危惧したが、なかなか良いできである。。
ただし、染五郎と木村佳乃の子供時代を演じる二人が、染五郎、木村に比して不細工。
幼馴染で相愛の木村が江戸に行き、藩主の側室になり世継ぎを産み、尼となる最後のシーンは、エリア・カザンの名作『草原の輝き』の、ラストのナタリー・ウッドとウォーレン・ビィーティの再会のシーンを思い出させた。
少なくとも山田洋次の『たそがれ清兵衛』より良い。
『たそがれ清兵衛』は、主人公の真田広之が全く「たそがれて」いないので、宮沢りえが惚れるのが当たり前で、映画が成立していない。見るからに不細工な中年男の清兵衛に宮沢りえが惚れるから映画の意味があるのに、真田では誰でも好きになる。
清兵衛の役は、せいぜい平田満あたりがやるべきものであり、本当なら渥美清の役柄だろう。山田洋次は、すべての思考回路が渥美清になっているのだろう。
渥美が死んだ穴は大きい。