山田洋次の現代劇の『東京家族』ではあまり感心しなかったので、期待しないで見ると結構良い。
人物の設定はほぼ同じで、橋爪功と吉行和子が祖父母、長男が西村雅彦で妻は夏川結衣で、妹が中島朋子とその夫が林家正蔵、一番下の男が妻夫木聡で、妻は蒼井優。
同じ俳優が、同じような役を演じるというのは、小津安二郎先生の方法である。
前回で妻夫木は舞台の裏方だったが、ここではピアノの調律師で、蒼井は前は書店員だったが看護師になっている。
要は、少し現実的というか、下層の現実に変えてある。
吉行は、女友達と北欧旅行に行き、その間に、橋爪が居酒屋・風吹ジュンと食事に行こうとした車で、道路工事のガードマンをやっていた小林稔侍と会う。
彼とは、広島の高校の同級生でサッカー部だったのだが、この映画の全体の中心は、橋爪から運転免許をどう取り上げるである。
小林は、裕福な家の息子だったが、バブル期に手を拡げて失敗して全国を放浪し、今はどうやら柴又の木造アパートで一人暮らししている。
橋爪は、もう一人の友人らとともに同窓会を開き、さらに風吹の店にも寄って泥酔し、橋爪の家に来て泊まることになる。
ああ、「東京物語」だなと思うが、友人が誰かと思うと、元アングラ劇第三エロチカの有薗芳記とは驚く。
そして翌日、小林はベット上で急死しているのが発見されるが、その日は子供たちが長男の西村の言いつけで、橋爪の運転免許のことを話し合う家族会議の日だった。
最後、身寄りのない小林の火葬に、家族全員が来て葬って上げる。
ここの筋の急展開は意外で、それにしても蒼井優が圧倒的に良い。
かつて「一億人の妹」と大場久美子が言われたが、本当の「映画ファン」の妹は秋吉久美子だったと思うが、今は蒼井優だと私は言いたい。
可愛さの上に演技のうまさ、自然さは本当に良いと思う。だが、山田監督には、倍賞千恵子主演で『霧の旗』を撮ったように、蒼井優の主演で、本当の悪女役の映画を作ってもらいたいと思う。
衛星劇場