知り合いに切符をもらったので、シアター1010の尚美学園大オペラを見に行く。
恥ずかしながら、『魔笛』は何度か見ているが、『フィガロの結婚』は、見たことがないという理由もあった。
一幕が始まるととても上手い。
今時の音楽大学の学生はこんなに大人びていて、上手いのかと驚く。
だが、休憩でパンフを見ると、演じているのは皆学生ではなく、河合尚市指揮、澤田康子演出の本物のプロ。
フィガロの久保和範は、東京芸術大学を出て、現在は尚美大の准教授という具合。
一応、尚美大関係者の若手歌手によるオペラで、今回で7回目だそうだ。
モーツアルト学者の海老沢敏先生の監修の下、1年間講義を受けた後の最後の仕上げのレポートを提出させるためのものだったのだ。
今時の大学は随分と進んでいるな、とも思うが、同時に「音楽大生なのだから、モーツアルトぐらい自分で見るようにしたら」とも思う。
事実、学生たちは二幕目になるとほとんど寝ていた。
筋は、書くまでもないが、セビリアの公爵家の話で、知恵の働くフィガロの活躍で、公爵の「初夜権」を諦めさせ、無事自分の結婚に至る喜劇である。
狂言などにもある、知恵のある従者と愚かな主人の構成で、近代の中産階級の考えに沿うものだったことは言うまでもない。
モーツアルトの音楽について、私ごときが何かを言うのは僭越だが、その自然さ、まさしく時代の響きを奏でているのはやはり凄い。
歌手では、女性なのに少年の役を演じる「ズボン役」ケルビーノの花本伊万里が、非常に可愛く、新鮮で瑞々しかった。
この役は、飛躍するが、レナード・バーンスタインの名作『ウエストサイドストーリー』で、ジェット団の周辺に出没し、トニーに入団を懇願する少女の役のヒントではないかと思った。
また、日本の劇作家・木下順二の作、17世中村勘三郎主演の劇に『赤い陣羽織』があり、映画で見ただけだが、これへも影響を与えているなとも思った。