『天河伝説殺人事件』

1991年、バブルの絶頂期に作られた映画で、市川崑監督作品としては中の下程度だろうか。

15年ぶりの探偵ものということで、石坂浩二の金田一に代わり、榎木孝明の浅見光彦。
最初、映画化の時に市川崑は、角川春樹から
「原作を読まないでください」と言われたそうで、その程度の内容の薄い作品である。

新宿西口の高層ビル街でサラリーマンが死に、能楽堂で「道成寺」を演じていた能楽師が、姿を隠していた釣鐘が上がると、そこで毒殺されて横たわっている。
そこから、能楽の世界に入り、天河神社に飛ぶ。
そこの旅館の女主人として岸恵子が出てきたところで、筋は読めてしまう。
このシリーズは、高峰三枝子、司葉子、岸恵子と主演の美人女優が犯人なのだから。
だが、岸恵子が犯す殺人の悲劇に悲しみは薄いのは、原作の性だろう。
やはり、このシリーズの最高傑作は『悪魔の手毬歌』だと思う。
文芸作品では勿論『細雪』が最高であるが、大岡昇平の『野火』もすごい作品だったが、これは人肉共食があるので、テレビではめったに放映されないのは誠に残念なことである。船越英二の痩せ方が異常にすごいのだが。

これを見て思うのは、石坂浩二・金田一耕助の台詞の上手さであり、榎木孝明との差である。
共に劇団四季の出身だが、この差異はどこにあるのだろうか。
石坂も、榎木の兄役で出ていて、警察庁刑事局長のエリート。

バブル時代なので、榎木や相手役の財前直見が、外車のオープンカーを乗り回しているのが当然のように見える。
ろくに収入のない若者たちが、高価な車を持っていることが特に不思議には見えなかった時代だった。
まったくすごい時代だったわけだ。

日本映画専門チャンネル

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