『ドクトル・マブセ』

サイレント時代の1922年のドイツの名作で、戦前に日本でも完全版ではないが、上映されて話題となったフリッツ・ラング監督作品。
『メトロポリス』のような抽象的、前衛的な作品だと思っていたら、まったく違い、犯罪ものであり、通俗的な部分もあり、非常に面白い。
物語は、医者にして、ギャンブラー、そしてギャングという恐るべきマブセ博士の悪行とそれを追い対決する検事との戦い。
「大賭博師」と「犯罪地獄」の2部構成で、260分を越える大作。
ストーリーも面白いが、美術とセットが凄くて、巨大な装置が続くのは、当時のハリウッド映画にも十分に匹敵するものだろう。

普通、表現派と言われるが、それは『メトロポリス』以降であり、ここでは未来派的な彫刻や美術が出てくる。
役者のメークも誇張されたものだが、大変な迫力がある。
冒頭で、地下室のような場所で老人のような連中が札束を扱っているので、何かと思うと、盲人に偽札作りをさせているのだった。
このように、1920年代のドイツの退廃し深刻な社会が反映されていると思える。
夜間のシーンがほとんどだが、アメリカ映画のような「擬似夜景」ではなく、本当の夜に撮影しているのは、当時のフィルムの感度やカメラを考えるとすごいことだと思う。
マブセと警察の追っ駆けのシーンは、内田吐夢の『警察官』にも影響していることがわかった。
こところどころは、退屈する場面もなかったわけではないが、この非常に面白い映画なのに、ずっと大きな鼾をかいて寝ている観客がいたのには驚く。
シネマヴェーラ渋谷

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