1970年、松竹で作られた吉永小百合主演映画、相手役は「憂愁のプリンス」松橋登で、まだ劇団四季にいた。
ピアニストの松橋とピアノの調律師吉永との恋物語だが、まだポルノ時代の前なので、二人は清い仲。
共に22歳で、吉永は結婚を意識しているが、松橋は、それよりもセックスの欲望が次第に抑えられない状態。
ある日、公園でそのことを松橋が言い、運よく雨が降り出して雨宿りすると、そこはホテル夢殿。
会話があり、吉永は決心するが、今度は松橋が逃げ腰になって仕事に行ってしまう。
そりゃないよなあと思うが、吉永は言う「意気地なし!」
姉の高須賀不至子の紹介で、高校教師の竹脇無我と見合いし、一度は承諾する旨を姉を通じて返事する。
だが、父親の三木のり平が、断りの返事を入れていた。
冒頭で、二人が家に来て、区役所戸籍係の真面目人間の三木のり平と松橋は性格が合わないが、どこかで認めていたのだろう。
戸籍の窓口に結婚届が出され、担当の三木のり平がそれを見ると吉永と松橋で、エンド。
意外に面白い映画で、原作野村芳太郎で、脚本はジェームス・三木。
子供の使い方など、ジェームス・槇の小津安二郎風なところもあり、なかなか上手くできていた。
監督の水川淳三は、大島渚の助監督もやった人で、前田陽一などと同様に、大島らのヌーベルバーグ連中が松竹を出た後も大船にいた助監督の一人で、結構良い映画を作っていたわけだ。
あまり決定的な作品はなく、テレビに行ったようだ。
この映画のもう一つの見どころは、舞台が横浜であることで、松橋が住んでいるアパートは、当時戸部にあった同潤会アパート。
そこに紛れ込んでくるバンドの「共有女」で、すぐに裸になる前衛詩人が司美智子だった。
松橋は、上智大の学生劇団の時からすでに有名で、私の中学の同級生の女の子も、ファンの一人だった。
松竹では、野村芳太郎の高橋英樹と秋吉久美子が兄妹を演じた『昭和枯れすすき』にも出ている。
そこでは、金持ちのドラ息子で、秋吉と関係があるが、殺人事件の捜査に来た高橋に向かって、「僕のような人間が、あんな子と本気で付き合っているわけはないでしょう」と平然と言うのが印象的だった。
新藤兼人の『こころ』にも出ていたなど、結構映画、テレビに出ていたが、それほどの人気にはならなかったのは、演技のお行儀が良すぎて押しがないからだと思う。
今は主に声優をされているそうで、大変に賢明な選択だと思う。