話は、私が一番苦手なDV、しかも実母による娘への虐待である。
前半は、原田美枝子による実の娘への虐待と、彼らが生活していた昭和20年代の日本の最下層の実景の再現で追われている。美術さん、ご苦労さん、と言いたくなる。引揚者住宅の外観と通り、東京の下町の風景など、多くはCGだろうが、よくできている。
原田がろくに子供に金を渡さないので、食べるおかずが、タイのデンブというのが泣かせる。あのピンク色のデンブは、結構美味しかったと思うが、おかずがそれだけでは、きついだろう。
昭和20年代から現在なので、多数の役者が出てくるが、原田の3人目くらいの男になる、傷痍軍人の国村隼が最高。
原田がひどく虐待をしても、見てみぬフリをし仕事の算盤を入れている弱虫だが、「顔を打ってはいけません」と言う。
それは、娘が将来水商売になったら使い物にならないという意味らしく、ある日虐待にひどく顔が腫れると、娘を街頭で自分の隣に立たせ「まま母に苛められています」と紙に書いた箱を持たせ、金を集めてしまう。
「物乞いって儲かるんだね」と男の子が言うと、国村は、
「乞食は、人に自分は恵んでやっているんだという喜びを与えている仕事です」と言う。
これは、イスラム教の「金持ちは貧困者に喜捨をする義務がある」という教えと同じである。
それは別の見方をすれば、税金がない地域での福祉、公共事業の起こし方だとも言えるが。
最後、老婆となった母親の原田との対面になる。
三浦半島の寒村で、美容院をやり、また男と暮らしている原田に、原田が娘の野波麻帆と一緒に会いに行く。
CGのお陰で、母と娘の原田美枝子は、きちんと同じ画面で演技が不自然ではなく見られ、「母子は、本当によく似ている」と感心し、「孫の野波は、似ていないな」とさえ思う。
この再会のシーンに二人に感情的な台詞が一切なく事務的に別れるのは非常によく、日本映画には極めて珍しい場面である。
シナリオは、鄭義信とは、さすがだが、音楽が過去のものばかりで、今一だった。
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