サイレント映画は大変に面白いのだが、弁士も演奏も付かないのは、眠くなってしまうので、なるべく行かないことにしている。
成瀬己喜男と小津安二郎作品がピアノ演奏付きで行わるというので、神保町シアターに行く。
『君と別れて』と『非常線の女』は、ともに1933年、昭和8年、満州事変が起きて、満州国ができた翌年で、サイレント末期になる。
『君と別れて』は、場末の芸者吉川満子の一人息子磯野秋雄と、若い芸者水久保澄子との恋物語。
場所は、遠く海が見えるので、蒲田の近くの糀谷あたりで撮られたものだろう。
磯野は、母の仕事を恥じていて、学校に行かず、不良仲間と付き合っている。
そんな磯野を見かねて、水久保は、彼を自分の実家に連れて行く。
1両編成の電車で向かったのは、海辺の寒村で、地形から見て明らかに金沢の小柴漁港だと思え、電車も京浜急行、当時の湘南電気鉄道だろう。
そこで、水久保の父の日守新一は働かずに昼間から飲んだくれていて、水久保の妹も芸者に売ろうとしている。
小柴漁港の大変貴重な映像が興味深い。
この水久保家の姿を見て、磯野は真面目になることを誓い、不良たちとケンカにまでなる。
そして、彼の傷がいえたとき、水久保は、品川駅から新たな店に移籍して行くと旅立っていく、妹の身売りを防ぐために。
満州国建国後なので、恐らく満州で、いずれは日本軍の慰安婦にされてしまったのだろうか。
水久保澄子は、非常に可愛くて素晴らしかった。
『非常線の女』は、小津安二郎のモダニズム趣味が一杯の作品だが、この裏には前年に起きた政治的事件がヒントになっていると私は思う。
それは是非、『小津安二郎の悔恨』を読んでください。
神保町シアター
コメント
Unknown
私も昨日 非常線の女を観ました。水久保澄子が可愛く、田中絹代に負けぬ演技を見せてくれました。
君と別れては、2度観ましたが、水久保の父親役は、日守ではなく河村黎吉です。
ありがとうございます。
ああ、そうか、河村黎吉か。
水久保澄子は、本当に可愛かったですね。ふと内藤洋子を思い出しましたが、この女優の人生は悲劇的なものだったんですね。
電車は江ノ島電鉄.当時は路面電車です.
沿線に看板の出ていた牛乳屋(牧場)は、今でも有るようです.
あの漁村は江ノ島だと思います.
江ノ島へ行く電車の中、照菊の話し
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義雄さん、私とこうやって並んでいて嫌じゃない?
よその人達、私達二人をなんだと思うでしょう
兄妹?、恋人同志?
きっと兄妹だと思うわね
私本当に、義雄さんのような兄さんがほしいわ
私には妹と小さい弟があるのよ
だけどいろんな心配事を相談したりするにはまだ小さいの
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義雄は母親の仕事、芸者という不誠実な仕事を嫌い、ぐれて不良仲間と付き合い始めていた.
不誠実を嫌った彼自身が、学校へも行かず不誠実な生き方を始めていたのだが.
照菊は義雄に困り事を相談できる、頼れるお兄さんになって欲しいと言った.
頼られる人間とは、誠実な人間でなくてはならない.
照菊の親は、仕事をせず酒ばかり飲んでいる不誠実な人間で、照菊だけでなく妹も芸者に売り飛ばそうとしていた.
照菊は妹を守るために、お金のために、自らより不誠実な仕事へと身売りをする覚悟でいた.
自分自身に誠実であろうとするが故に、より不誠実な生き方を為ざるを得ない、自分の悩みを理解して欲しいと、照菊は義雄に望んだ.
この作品は、原作、脚本、演出、全て成瀬巳喜男
成瀬巳喜男の作品のなかで一番すぐれた作品の1本のはずなのだけど、忘れ去られてしまっているのでしょうか.
あれは、京浜急行だと思う。当時は、湘南電鉄も路面電車でした。
島のように見えるのは、八景海岸で、今とはかなり形が変わっていますが、埋め立て以前の八景付近だと思う。
石段は、今もあります。