こんな2本を川崎市民ミュージアムで見た。「東宝争議の監督たち」という特集で、土曜日は『きけわだつみの声』と『狂宴』で、『きけわだつみの声』は昔見て暗かったので、どうでも良かった。『狂宴』は戦後、奈良に進駐した米軍の狂態を告発する映画で、極めて上映されることが少ないので、見たかったが用があったので止す。
『大いなる驀進』は、大ヒットした『大いなる旅路』の続編で、東京から長崎まで、特急さくらに乗務する国鉄マンを描く作品。専務車掌が三国連太郎、部下の給仕が中村賀津夫、恋人が佐久間良子、ライバルの食堂車ウェイトレスが中原ひとみ。
いわゆるグランド・ホテル形式で、スリの花沢特衛や代議士上田吉次郎、自殺する経営者小川虎之助、医者小沢栄太郎など様々な連中が出てくる。
クライマックスは、三原付近で台風の土砂崩れに巻き込まれるが、機関手、乗務員はもとより、中原らのウェイトレス、さらに関係ない佐久間良子や看護婦の久保菜穂子まで出て来て、全員で土砂除去作業をし、無事列車は30分遅れで長崎に着く。
低賃金から給仕を辞めようとしていた賀津夫も、国鉄マンの素晴らしさに感動し、さらに働くことを決意する。
この20年後には、分割民営化など誰も予想しなかった「国鉄全盛時代」の讃歌。
『モーガン警部と謎の男』は、当時テレビで人気のあったモーガン警部役の役者と部下の二人を来日させ日本で撮った珍作。
アリゾナ州ツーソンから始るが、勿論日本。部下が麻薬ギャングに殺され、そこに香港製の造花が落ちていたことから、香港に捜査に行く。勿論、香港も東映東京撮影所。山形勲、河野秋武らの麻薬ギャングがいて、孤児院で造花を作らせ、そこに麻薬を仕込み、世界中の慈善協会と言う名の相手に送っている。
そこに、謎の男「マラッカのカミカゼ」鶴田浩二が出没する。
すぐ東京が舞台になり、刑事の中山昭二と鶴田が戦友であることが分かり、鶴田は特攻隊の生き残りであることが明かされる(鶴田は本当は整備兵だったが、特攻隊映画に主演している内に、自分は特攻隊だと信じ込むようになった)。
ラストは、お台場の連中のアジトを急襲し、全滅させめでたし、めでたしになる。
これが珍品という所以は、モーガンを含め全員が日本語を話すことで、要はテレビ映画の吹き替え(モーガンは若山源蔵、部下は日下武)。もともと日本人役者なのだから当然だが、香港の中国人も日本語で話す。
戦後、共産党だとして東宝争議後、映画界を追われた左翼映画人関川秀雄も、昭和36年になると、日米の警察が協力して不良外人を撲滅する映画を撮ることになったという記念碑。
『大いなる驀進』も、戦後体制の中で、労使協調が安定していたことを象徴する作品である。
そこには、「マル生運動」も動労も国労もない、誠にいい時代だったのだ。