言わずと知れた山中貞雄監督の名作だが、見るとやはり面白い。
それは、河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸しずえ、市川扇升、加東大介、そして原節子、清川荘司と皆適役だからだ。
また、スタッフ、キャストが皆若いということがあり、ここに流れているのは、青春のあやうさ、悲しさであると思う。
前に阿佐ヶ谷ラピュタで、これを松竹京都でリメイクした萩原遼監督の近衛十四郎と青山京子の1959年の『江戸遊民伝』を見て、作品の出来は悪くないのだが、そこに決定的に欠けているのが「若さ」だった。
そして、1936年のこの作品の底流に流れているのは、ラストの下水道に逃れていくことに象徴されている、戦争の時代で死に向かっている主人公たちに覆いかぶさっている戦争の悲劇性である。
その意味では、1959年に作られた『江戸遊民伝』は、平和な時代での若者の悲劇を作ることの難しさであり、これは作家の責任ではないのだ。
原節子は、本当に適役で、当時16歳にしては非常に大人びて見えるが、さすがに声は子供である。
河原崎長十郎の芸格の大きさは本当にすごいと思う。女房を演じる山岸は、岩下志麻の叔母さんであり、やはりよく似ている。
この時代の劇を見て感じるのは、スタッフも観客も歌舞伎のことをよく知っていることで、「とんだところに北村大膳・・・」も、皆がよく知っているので裏返すことができるのである。