月丘夢路、死去

月丘夢路が亡くなられたそうだ、95歳。

日本映画史上、最高の美人の一人だろう。宝塚時代からきれいなので有名で、そのためにいじめも受けたそうだ。

彼女を見て、すぐに思い浮かべるのは、傾国の美女という言葉で、楊貴妃はまさに適役だったはずだが、大映で溝口健二が監督したので、グランプリ女優の京マチ子が演じた。

戦後は松竹にいて、「おしゅん捕り物帖」などいろいろな作品に出ているが、これというものはなかったと思う。

私が彼女の適役と思うのは、日活に移籍しての『白夜の妖女』である。泉鏡花の『高野聖』の映画化で、以前神保町シアターで見た時、次のように書いた。

1957年、日活での泉鏡花の『高野聖』の映画化である。脚本は八住利雄、監督は滝沢英輔、主演は月丘夢路と葉山良二。私は2年前に歌舞伎座で、市川海老蔵と坂東玉三郎で演じられたのを見ている。ここでも二人の入浴シーンが話題だった。映画でも、月丘の入浴シーンがあるが、「それが売り物ではないよ」と言うことで大ベテランの八住のシナリオ、真面目な滝沢の監督になっている。話は、明治5年維新政府から、高野山の「女人禁制をやめよ」との命が出て、高野山の僧らが猛反対したとき、老師滝沢修が、自分の若き修業時代の経験を語る形で、女人との関わりが展開される。至極真面目に、荘重に「文藝エロ」を表現するわけである。飛騨高山から木曽路に抜けようとしていた修行僧の葉山は、途中で道に迷う。そして、深山で絶世の美女月丘夢路のいる山小屋に行き着く。彼女は、白痴の夫と暮らしていて、彼女の周りには蛙や蝙蝠が集まってくる。すると彼女は言う。「お黙り、大人しくお帰り」と蛙や蝙蝠は散る。葉山は牛小屋に、自分を追い抜いて先に行った富山の薬売りの河野秋武が背負っていた荷があるのに気づく。荷物はあるが、彼はいず、強壮な牛がいる。月丘は、そこに住む白藤一族の白痴の跡取と無理やり結婚させられた代わりに、彼女に魅入られた男を動物に変える能力を与えられたのである。役に立つのは牛か馬に、役立たずは蛙や蝙蝠にされる。
確かに、月丘夢路さんだったら、一夜を共にする代わりに動物にされても良いと、大抵の男は思うに違いない。私もそうです。事実、当時日活の社長の堀久作氏も月丘に惚れており、それのため最高給で彼女を松竹からわざわざ引き抜いた。
ところが、彼女は『嵐を呼ぶ男』等で石原裕次郎を育てた監督井上梅次と結婚してしまったので、堀久作は怒り心頭に達し、井上と月丘を日活から追放してしまった。

さて、ここでも途中の密林でヒルに血を吸われた葉山を癒すため、月丘は葉山を温泉に案内して、自らも入る。ここが最大の売りの月丘のセミ・ヌードの入浴シーンである。
勿論、当時のことなので、テレビの水戸黄門の、由美かおる程度である。最後、白藤一族との戦いになり、彼らは火と共に焼け滅び、一人葉山良二のみが仏法の力で生き残る。そして、滝沢の話を聞き、僧らは納得して高野山に女性の入山を許すことになる。そりゃそうでしょう、月丘夢路の美しさには誰も逆らえまい。ここから高野山の堕落が始まったのか、だがそれは月丘夢路の性だとすれば、楽しい堕落であると言うべきだろうか。

彼女の日活時代の作品には、渡り鳥シリーズ以前の斉藤武市の監督作品として、戦後の横浜を舞台とした『名づけてサクラ』があり、これは米国人との混血児を産んだ元オンリーの彼女を描くものでぜひ見たいと思っている。チーフ助監督が神代辰巳で、その予告編が最高だったと言われているので、それも併せて見てみたいと思っている。

彼女の95歳での死去は、まさに「美人長命」の証であり、ご冥福をお祈りしたい。

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