新文芸座で、『薩チャン正ちゃん~戦後民主的独立プロ奮闘記』を見た。
完璧に間違いではないが、戦後の東宝ストライキの原因の説明は不十分だった。
ここでは、東宝が近代的な会社で、フリーで優秀な人材を入れたために、山本薩夫、今井正、宮島義勇、久保一雄らの共産党員も入れたために争議が起きたと説明されている。
では、後のレッドパージでは多くの共産党員が首になった松竹や大映ではなぜ、深刻な争議が起きなかったのか。
それは、東宝には戦争前から秘密スタジオの航空教育資料製作所があり、多数のスタッフを抱えていて軍事マニュアル映画を作っていたからである。
戦後、注文主である、日本陸海軍が消滅してしまったのだから、要員はすべて不要となり、1300人の首切りになったのである。
ただ、今井や山本らの弁護をすれば、ほとんどの東宝の人間は、航空教育資料製作所の存在と業務は知らなかったのだと思う。
「なんか軍関係の映画を作っているらしい」程度の認識だったと思う。
今、ヒット中の『シン・ゴジラ』の生みの親の円谷英二の「秘密主義」も、彼の職人気質もあるだろうが、戦時中の航空教育資料製作所での仕事の仕方が元であることは間違いないだろう。
さて、この映画は二人の軌跡を良く描いているが、今井正の『夜の鼓』のことが出てこないのは不満である。
私も、「今井正イコール共産党」という図式だったが、この『夜の鼓』を見て驚嘆した!
「現在の日本のサラリーマンの家の夫が不在中の、妻の浮気とまったく同じではないか」
その現代性に驚いたのである。特に有馬稲子のセクシーな美しさには本当に驚嘆した。その後、友人、知人に吹聴して回ったのである、「今井正はすごい」と。
有馬の本では、このとき「待って」の一言に1週間かかったとのことだが、ここでの今井の演出は本当にすごいと思う。
彼の監督作品では、『ここに泉あり』も、クラシックのみが文化というのが嫌だが、小林桂樹に代表される文化運動のだめさを良く描いていると思う。
そして、『にごりえ』は、大変な名作で蜷川幸雄の劇『にごり江』は、明らかに今井正の映画の直接的な影響を受けている。
山本薩夫というのは、非常に面白い人で、群衆場面や大衆を入れたアクションが非常に上手いが、元は画家なので、黒澤明に似たところがある。
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