谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』は、大映で3回映画化されていて、最後の増村保造監督の1967年版は蒲田大映で、村山三男の『悪魔からの招待状』と一緒に見ている。
また、最初の1949年の木村恵吾監督版は、テレビでその一部を京マチ子を宇野重吉が抱きしめる場面のみ見ていたが、1960年のやはり木村恵吾による叶順子と船越英二のは初めて見たが、結論としてはこれが一番良かった。
1924年に発表された小説は、自由奔放で肉体美の少女ナオミを描くもので、1949年版は京マチ子、相手の真面目なサラリーマンは宇野重吉。ナオミの周りを取り巻く不良青年は、森雅之、三井弘治で、キャスティングは上々である。
ただ、1949年と戦後すぐでまだ日本の景気が良くない時代なので、セット、衣装が貧弱で、1920年代のモダニズムを基にしている原作から見れば少々苦しい。
1960年版のナオミは叶順子、相手の河合譲二は船越英二、と言っても知らないだろうが、船越英一郎の父親で、当時の大映では最高の二枚目の演技派である。
叶は、肉体派だったが、演技が自然で色気があり、非常に人気があったが、1960年代に突如引退した。ナオミを取り巻く不良は、田宮二郎、川崎敬三らで、女性には江波杏子の名もあったが、どこに出ていたかは不明。
1967年の増村保造版は、ナオミは安田道代で、譲二は小沢昭一であり、ここでは彼は日石の根岸製油所のエンジニアになっていて、大映作品には数少ない横浜を背景とする映画である。
小沢の安田への「愛玩ぶり」は異常で、しかも写真が趣味となっていて、安田の様々な写真も出てくる。
増村らしさは当然にあるが、どこか異常で、最後に譲二が再びナオミの魅力に離れられず、ナオミの下で馬になるところなどは、1960年の木村恵吾版のような自然さがなく、どこかサドマゾ的な異常性を感じてしまうのだ。
このナオミ作品は大映では3回だが、実は東映セントラルでも作られていて、監督は高林陽一、ナオミは水原ゆう紀、譲二は私の先輩の斉藤真さんである。見ていないので、ぜひ見てみたいと思っている。
角川シネマ新宿シネマ2