昭和39年、日本でミュージカル映画熱が最高潮に達していたときに作られた記念碑的作品。
脚本笠原良三・井出俊郎、監督須川栄三、音楽黛敏郎。
旅行代理店東和旅行社での若手社員フランキー堺と高島忠夫の出世をめぐる喜劇で、社長の娘・雪村いずみ、和風居酒屋の女・中尾ミエらが絡む。
会社での「アメリカでは」、箱根のホテルでの「タクラマカン」、最後に路上でサラリーマンの大群衆が踊り歌う「日本では」等のミュージカル・ナンバーが素晴らしい。
黛敏郎の音楽、東宝得意の大群衆シーンの迫力、対照的な二人の主人公と筋の展開の面白さなど、日本でのミュージカルの最上作の一つだろう。
益田キートン社長を羽田空港で送る際の、社員によるパレード、白装束の修験者姿の女性軍団の団扇太鼓を打っての踊りなど、シニカルなユーモアも面白い。
この日の午後に上映された、同年に作られた大映のミュージカル『アスファルト・ガール』は、大映らしい泥臭いセンスだったが、意外にも出来はまともだった。
ただし、主演の坂本博士は良いとしても、相手役は中田康子で、彼女は良い女優だが、当時大映社長・永田雅一の愛人だったことは、周知の事実だった。
制作スタッフ等は、作っていてやる気になっていたのだろうか。
ともかく若さが全くないのが、最大、最高の欠点である。
坂本はクラシックのオペラ歌手だが、演技も悪くない。悪役の岩村信雄は、田宮二郎似の渋い顔だが、実はクラシック・バレーのダンサーらしい。
ミュージカル・ナンバーのダンサーとして出てくるのが、当時テレビ、舞台で活躍していた原田信夫とキャラクターズ、さらに尾藤イサオら。
今から見れば、やはり当時はミュージカルの出来る役者はきわめて少数だった。
フィルム・センター