『初春狸御殿』

戦前から新興キネマ、大映の名物映画「狸御殿シリーズ」。
昭和34年のこの作品の後、39年の西郷輝彦・高田美和の『狸穴町0番地』で終わりとなる。ここでは高田美和の網タイツ姿がひどく肉感的で、到底私と同年齢とは思えなかった。

田舎の狸娘の若尾文子とカチカチ山でウサギに化かされて背中を焼かれたヤクザ狸の菅井一郎親子。
若尾が、お城の狸姫にそっくりなことから、家出した姫に代わり、若殿市川雷蔵と見合いする。家老は中村鴈治朗という豪華な配役。
と言っても、水谷良重はじめ藤本二三代、松尾和子、神楽坂浮子らが歌い踊るのが主眼であり、ほとんどレビューのつなぎで、戦前から、実演の代わりのレビュー映画として人気を保ってきた。当時としてはぎりぎりの半裸の河童・小浜奈々子、毛利菊江らも出る大サービス。雷蔵の踊りの上手さが大いに堪能できる。バックのダンサーは、大阪松竹歌劇団。
薬売りの勝新太郎は自分で歌っているが、雷蔵や若尾の歌は吹き替え。

すべて民謡で、それを時代劇として洋楽で、裸の足を出して踊る。ときにはダンサーの着物の割れ目からパンツが見えたりするのだから、実に珍妙なもので、これは日本なのか、西欧なのか、大いに判断に迷うところだ。
実は、こうした混交は、戦後、いや明治以来の日本文化の本質であり、この珍妙さ、いい加減さ、出鱈目さは、NHK年末の「紅白歌合戦」の感じによく似ている。
最近、紅白歌合戦がつまらなくなったのは、こうした俗悪さ、出鱈目さが薄れているからだと思う。カッコよくやろうとするから面白くなくなるのだ。

最後、村娘の若尾のところに偶然に来た姫を菅井が殺そうとしたとき、若尾は姫の身代わりになって負傷し、菅井も改心する。
これは、完全に歌舞伎の『寺子屋』等の「身代わり」であり、監督の木村恵吾以下のスタッフの芝居への造詣の深さが窺える。

村娘の若尾も薬売りの勝と結ばれることを暗示し、雷蔵と一緒になる姫も、村娘への恩を示して終わる。
実に馬鹿馬鹿しい、だが幸福な後味の映画だった。
フィルム・センター

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