昭和30年、前年に制作を再開した日活が戦前のドル箱だった時代劇を新国劇と共に作った作品。
監督滝沢英輔、脚本菊島隆三、主演は新国劇の島田正吾と辰巳柳太郎。
幕末の坂本竜馬暗殺事件が題材。
坂本に私淑していた土佐藩士・伊吹武四郎(島田正吾)は、坂本(滝沢修)が暗殺されると、六人の暗殺者を捜しに京と江戸を往復する。
島田は、結局犯人を探せず、明治維新になる。
坂本から教えられた平等な社会に向けた「民論新聞」を出すが、薩長政府に弾圧され、土佐に戻り運動を持続することを決意する。
その途中、京の坂本の墓参りに行ったとき、以前暗殺現場近くで聞いた「謡」を聞く。
それは、上野の彰義隊戦争で死んだはずの坂本暗殺犯の辰巳柳太郎だった。
彼は、薩摩藩に裏切られ、彰義隊戦で目を負傷し、盲目になっている。
盲目の辰巳と島田との殺陣。
辰巳は言う「やっと世の仕組みが分かり、ものが見えたときには、皮肉にも自分の目は見えなくなっていた」
新国劇は、殺陣が売り物の劇団で、黒澤の『用心棒』や五社英雄の時代劇のリアルな殺陣が出るまで、最もリアルで迫力のある殺陣をやる集団だった。
さすがい上手いが、今の目から見ると様式的である。
竜馬の暗殺犯は、見廻り組説、新選組説、そして薩摩藩説があるようだが、ここでは薩摩藩で、しかも犯人の辰巳も薩摩藩に最後は裏切られる。
さすがに菊島隆三脚本なので、推理劇、チャンバラ、そして組織の非情さ、さらに戦後の最も平和主義が強力だった時代なので、暴力ではなく平和を訴える作品になっている。
監督の滝沢は戦前の鳴滝組以来の大ベテランで、大変重厚でまともなつくりである。
近藤勇が山形勲、西郷隆盛は石山健二郎、勝海舟は三島雅夫と大変豪華なキャスト。
チーフ助監督は、後に日活で大活躍する蔵原惟善で、主演女優の宮城野由美子と結婚する。
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