『用心棒』

だいぶ前に何度か見ているが、久しぶりにみてどう感じるか、見てみた。

意外にも、暴力性は感じない。その後、いくらでももっと凶悪な作品が出てきたからだろうと思う。

三船敏郎がまだ若い感じがする、まさに三十郎、じき四十郎だというが、本当は41歳なのだが。

ふらっとある町に来た風来坊の三船が、二つのやくざの対立を利用して両者を壊滅させようとするが、さまざまに邪魔が入ってすぐにはできない。始まって約1時間で、仲代達矢が登場して話を複雑にする。つまり、まともに三船に対抗できる者が初めて出てきたのだ。

やはり、この映画をあらためて見てみると、シナリオについては、黒澤明よりも、菊島隆三の意思が強く反映しているなと思う。この三船が演じた超人的、加東大介が言う、「お前って強いんだったな」というスーパーマン的強さは、黒澤の物ではなく、菊島の物だと思った。

菊島は、男性的な世界を描くことが非常に上手い脚本家で、その代表作が勝新太郎と田村高広の『兵隊やくざ』シリーズである。そこでは元ヤクザで粗暴だが異常に強い男の勝とインテリの田村が、強い友情で結ばれている。こうしたものは、黒澤明には全くないものである。

では、この『用心棒』で、男の友情めいたものはあるかと言えば、三船と飯屋の親父の東野英治郎との関係がそうだと思う。

初めは、三船を嫌っていた東野だが、土屋嘉男と司葉子夫婦をやくざから救って逃がしてやったことを知り、三船の真意を理解する。だが、土屋からのお礼の手紙が飯屋の机の上においてあり、仲代がいきなり入ってきて、それに気づくところのサスペンスなど、さすがに菊島のシナリオは上手い。

この「うじうじしていて」、三船から嫌いだといわれる土屋嘉男の姿は、むしろ黒澤明に近いのではないかと私は思う。

それは黒澤自身が言っている、「俺はセンチメンタリストの泣き虫なんだ・・・」と。

この映画が日本の活劇を変えてしまったのだが、今見るとあまりそうは思えないのは不思議だが。

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