『昭和の子役』 樋口尚文 国書刊行会

最近読んだ本で、一番面白かった。

ただ、題名が昭和の子役となっているが、厳密に言えば昭和のテレビの子役であり、映画の子役のことはあまり記述されていない。

池田秀一に始まり、高柳良一まで多くの子役へのインタビューが載せられている。

やはり、興味深いのは、『砂の器』の子供で、後に主人公の作曲家の和賀英良になる春日和秀だろうが、私にはTBS系のテレビドラマによく出ていたという水野哲のものである。

春日は、『砂の器』では、一言も台詞がないのだが、強烈な印象で、後に彼は名を隠して普通の会社に就職するが、必ず途中で分かったしまい、今は自分で車関係の会社をやっているとのこと。有名になるのも大変なものだとつくづく思う。

水野は、TBSの石井ふく子のドラマを見ない私には記憶がないが、非常に頭というか感性の鋭い子役だったようだ。

彼は、両親が芸能界にいたので、早くから東宝の菊田一夫らに知り合い、その縁で東宝演劇部の舞台に出る。その時、長谷川一夫の着物の着付けの仕草のカッコ良さに魅了されたとのことで、普通の子供の感性ではない。

長谷川の殺陣と勝新太郎のそれを比較し、勝のはリアリティを求めるものだったが、長谷川のは踊りだが、水野君はそちらの方が好きだったとのこと。

彼は、テレビの『鞍馬天狗』にも出て、竹脇無我とも共演し、テレビに不慣れだった沖田総司役の古谷一行に対して「下手だな」と思ったが、さらに竹脇には俳優に対し冷めていて、やる気を感じなかったとのこと。

対して迫力を感じたのが、渥美清で誰も寄せ付けない孤独な真剣さを感じたそうだが、それは渥美の批評としては極めて正確だと思える。

その後の水野の軌跡も非常に興味深いが、当時と現在の芸能界との違いについて、

当時は彼にとっての長谷川一夫のように、ある権威ある人が言えば、それに従うということで、今は何でも自分の思うように言い、考えていることを出すということだとしている。

それだけ、芸能界が普通の社会とはそう大きくは違わない社会になってきたのだと言えるのだろう。

小柳徹、市川好朗、西川和孝らに触れていないのは、いかにも樋口氏らしいと思う。

普通、子役というと出てくる、あの人は今的なスキャンダルめいた悪の面に触れていないからだ。

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