五所平之助は、非常に好きな監督だったが、これも五所らしい良い映画だった。
中央線の小淵沢駅に、大塚道子、岩崎加根子らの女子大生が降りてくる。
農村の調査のためらしいが、一人沢村契恵子が熱を出し、駅前の旅館に泊まる。
村の医師沼田曜一が来て診察し「軽い肺炎ですな」と言われれ、二階の一室で療養することになる。沼田というと、新東宝倒産後は、東映のヤクザ映画では不気味な悪役だったが、この頃は正統派の二枚目である。
旅館の女中に川崎弘子がいて、まるで「掃き溜めにツル」だが、沢村は彼女に救われることになる。
旅館の主人は中村是公、妻の岡村文子と娘の倉田マユミは、西欧かぶれで、倉田はバレーに憧れていて、SPの『水色のワルツ』で踊る。そこにはインチキな振付家も来て、部屋で踊ると隣の家の屋根に登って覗き見る者もいる。
沼田は、貧困な農村の健康の改善に当っていて、結核が蔓延している村の分教場で子供の集団検診をしている。沢村は、そこに行って沼田の手伝いをする。
結核なので、ツベルクリンもなく、いきなりBCGを打っているようだ。そこは電気もなくて、教師の稲葉義男は、ランプ生活で頑張っている。夜遅くなり、沢村はそこに泊まることになる。稲葉としては、映画初出演くらいだろうと思う。
実は、沢村は、継母と仲が悪くすべてに素直になれないでいたが、沼田の言葉で次第に素直になっていく。継母との「なさぬ仲」は、蒲田以来の松竹の十八番だが、五所はうまく演出している。
その時、父の三津田健が来る。彼は農林省の課長だが、薄給で、沢村は彼の足袋を繕ったりしている。背広なのに、三津田は足袋で靴を履いていたのだろうか。
昔は、靴下も弱かったもので、電球に靴下を入れて、空いた穴を繕った記憶が私にもある。
最後、東京に戻る沢村と三津田を沼田と川崎が、小淵沢駅で送るところでエンド。
沢村は、その名の通り、沢村宗十郎の娘で、香川京子に似た美人だが、台詞がぶっきらぼうで参る。
昼にあった「叛軍シリーズ」4本は、当時の前衛主義と監督の岩佐寿弥の観念性と詩人的資質がよく分かるものだった。「叛軍4」での最首悟の和田周への詰問は、少々不愉快で、最首は酒乱なのだろうか。
「叛軍シリーズ」のような映画は、映倫のマークもなく、シネ・トラクトとして政治集会で上映された。
特に、何かの行動の前夜の大学での泊まり込みの時に上映された。指導部からのアジ演説や地方から報告ばかりでは飽きるので、中に映画を挟んだのである。
画面の度に「異議ナシ!」と「ナンセンス!」が交錯したもので、私も一度早稲田で「反大阪万博」の退屈な映画を見せられたことがあること思い出した。
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