青春映画は『坊ちゃん』か『青い山脈』

衛星劇場が放映していた野村芳太郎監督、高橋貞二主演の『次男坊』シリーズを見た。
『次男坊』『キンピラ先生とお嬢さん』『次男坊故郷に帰る』など。

なかなか面白いとも言え、またひどくばかばかしいとも言える作品である。
だが、いずれも高橋貞二を良く生かした役柄になっていて、この辺は、昔の撮影所である。
当時、スターはすべて撮影所に属し、一年中多くのスタッフと共に仕事をしていたので、彼らは自然とスターの魅力を上手く見出し、作品化することができた。1970年代以降、映画スターが生まれないのは、撮影所が崩壊し、そうしたスタッフとの日常的な関係がなくなったことが大きな原因である。
高橋の持ち味は、自然なとぼけた風貌で、他になかなかないものである。
大嫌いな言葉だが、今よく言う「天然ボケ」そのものであるが、見るときちんと演技している。

この3本の中では、『次男坊故郷に帰る』が一番面白かった。
理由は明確で、父親が伴淳三郎、高校の校長が明石潮、ばあやが浦辺粂子、高橋が苦手としていて優等生の長男が三井弘次と上手い役者を揃えているからである。こうした単純娯楽映画は、テーマや筋書きの面白さといったものはないのだから、出る役者に頼るしかない。
特に最高なのが伴淳で、彼も酒好きでいいかげんな父親なので、自分の子供なのに真面目な三井を嫌い、豪壮な作り酒屋の屋敷を出て、若い女幾野道子と汚い貸家に住んでいる。
幾野道子は、戦後に日本映画で最初の「接吻シーン」を大坂志郎と『はたちの青春』で演じた女優で、抑えた色気がある。

高橋は、東京で職場結婚した桂木洋子の披露を兼ねて故郷の会津に来たのだが、まず父親の伴淳が家にいないので驚く。
また、桂木は田舎の人間たちの奇妙な振る舞いにさらにびっくりする。中では、同級生と名乗る桂小金治が最高におかしい。
この映画の出演者の中で、多分まだ生きておられるのは、桂小金治だけだろう。
この辺の東京と地方の差は、当時は今より遥かに大きかったのだ。
高橋の同級生たちは、歓迎の同窓会を開き、盛大に騒ぐ。
伴淳に子供ができた(間違いと分かるが)の騒動があって、最後高橋と三井、伴淳、さらに桂木も田舎の人間を理解して終わる。
極めて松竹大船的エンドだが、当時はさしておかしいとは思われなかったに違いない。

このシリーズ、あるいはテレビの青春もの等を見て感じるのは、その原型は漱石の『坊ちゃん』か、石坂洋次郎の『青い山脈』になると言うことだ。
「次男坊」シリーズで言えば、1作目の『次男坊』は、まさに『坊ちゃん』で、大学卒業後、高橋と三橋達也は、それぞれ証券会社と新聞社に入り、社内の問題と戦い勝つことになる。
『キンピラ先生とお嬢さん』は、松竹版『青い山脈』で、原節子役は淡島千景、ここでは女子高生のアルバイト問題がPTAでの議論になる。

高橋貞二は、本当に良い役者だったが、交通事故で若死にしたのは勿体ないことだった。
それは、佐田啓二も同じで、この二大スターがいなくなったのだから、松竹大船が駄目になったのも当然だったわけである。
その後、松竹を一人で支えたのが、美男ではない渥美清だったと言うのは、時代なのだろうか。
衛星劇場

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