1960年6月に大映で公開された三隅研二監督作品。原作は西条八十、主人公は作家の船越英二。テレビで大活躍の船越英一郎の父親で、大映では時代劇、現代劇、喜劇、文芸作品など、なんでもこなせる名優だった。中では、『男はつらいよ・寅次郎相合傘』で渥美清、浅丘ルリ子と共演したサラーリーマンの演技が素晴らしかったと思う。
週刊誌が、街頭の人間の写真を撮ってグラビアに載せ、その人間に本人と名乗ってもらい、3万円を出す企画をしていて、浅草の映画街を歩く山本富士子がスナップ撮影される。
浅草電気館は『次郎長富士』の絵看板。これは長谷川一夫、山本富士子、市川雷蔵、勝新太郎らスター総出演の大変に面白い大作。「続編」では森の石松の勝新が村のドブで惨殺されるが、ワイダ監督の『灰とダイヤモンド』そっくりに死ぬのが興味深い。勝新は、ワイダの映画も見ていたのだ。
作家の船越は、写真の女性の山本富士子を雷門と地下鉄口で見かけるが見失い、寿司屋に入り、
「トロからやっていこうかな・・・」と板前の丸井太郎に言うと、山本が折詰を受け取りに入ってくる。丸井は、後に『図々しい奴』で人気者になるが,すぐに自殺した。
「写真に写っていましたよ・・・」というが山本は「知っているけれど・・・」取り合わない。「3万円ですよ」と言っても、それがという反応。当時の3万円は、今では50万くらいにかんじだろうか。
二人は意気投合して浅草の町を歩く。金魚掬いに失敗して着物姿の山本が水槽に落ちるシーンもあり、「高価な置物が!」と思ってしまう。
焼き鳥屋で焼き鳥を食べ、酒を飲んだのち、二人はホテルに入り一夜を共にする。
その時、車を運転していた高松英雄が誰かに射殺される。
拳銃音に驚いてホテルの外に出た山本のところにチンピラが、「うちの親分が殺されました、高松の復讐です」という。彼女は、浅草のヤクザの女親分の娘だったのだ!
彼女は、財産を処分し組員に分けて組を解散し、普通の女になる。大滝銀子の江波杏子なら女賭博師になったわけだが、山本富士子は賭博師にはできなかったのだろう、さすがの永田雅一も。
箱根で小説を書いていた船越が、ロープウェイで降りると、彼を有名作家と知って、洒落た女の野添ひとみが近づいてくる。小田原駅で二人は別れたが、野添からの手紙をもらって船越は、井の頭線沿線の小高い丘にある、お化け屋敷のような木造アパートの行く。
そこで野添は船越のファンだが貧乏で、自殺まがいの芝居をする。船越は同情して3万円を置いて去る。
後日、刑事が船越のところに来て、「彼女は有名人相手の詐欺師で、同情を引いて金をもらっていたのです」というが、船越は「金は渡していません」というので、詐欺罪に刃ならず、野添は釈放される。
最後は、クラブの若い女の叶順子が、戦前に船越と別れて上海に行ったダンサーの女の娘と分かり、彼は叶と夢のような時を過ごすが、本当は船越との間の娘ではなく、別の男との娘だったので、叶は黙って船越の許を去る。
いずれも「女性の嘘」に関するドラマで、元は西条八十の随筆だろう。
この船越一人のオムニバス・ドラマは、成功したのか、大映で『女経』『嘘』と作られることになる。オムニバスとはポルトガル語で、バスのことで、複数の話でできたドラマである。
昔は、映画会社が大スター、脇役、大部屋俳優と多数の役者を抱えていたので、彼らを使うには都合のよい方法だったが、今は映画会社は俳優を持っていないので、作られなくなったのだろうと思う。
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