1962年に大映で作られた勝新太郎が、大津事件でロシア皇太子を暴漢から助けた人力車夫安太郎を演じる。
安太郎は、無知蒙昧な酒浸りの乱暴者だったが、ニコライ皇太子を襲った警官の津田三蔵を偶然に偶然に取り押さえたことから起きる波乱の生涯。実際は、彼一人ではなかったようだが、それは良い。
脚本八住利雄、監督は木村恵吾。
ロシアとの戦争を恐れる政府、国民から安は感謝され、ロシアからは多額の恩賞金と年金が貰える。村の英雄と称えられ、彼は金で屋敷を建て、元校長で国会議員となる三島雅夫の娘近藤恵美子を嫁に貰う。村での酒池肉林が傑作だが、なにかと言うとすぐに怒ってものをやたらに壊す勝新が最高である。
勝は、もともとは「長谷川一夫の物まね演技」だったが、この時期から自分の性格である自由奔放性を引き出すようになり、長谷川の呪縛から逃れるようになり、いつには「座頭市」に当たるのである。
しかし、ロシアとの対立が深まり、戦争の危機感の中で、次第に安太郎への批判も高まり、逆に津田三蔵が英雄とされるようになる。この間で起きた有名な司法事件良く知られるところだろう。
ついには日露戦争になり、安太郎は非国民、ロシアのスパイとさえ言われる。ロシアの金で屋敷を建てたのだから、焼けても当然だとまで言われる。近藤は、実は家の書生と以前からできていて、生まれた息子も勝新とのものではなく、書生との間のもので、「何もしないで酒ばかり飲んでいる一太郎は嫌だ」と家を出て行ってしまう。
この日本人の、英雄と一時は称えるが、すぐに非国民と蔑むのは、脚本の八住利雄の心情の反映のように思える。彼は、ロシア文学者の元左翼で、戦時中は「非国民」と蔑称され、憲兵に監視されていたそうだ。日本人の付和雷同性が強く批判されている。
最後、日本人であることを明かすために兵士に志願するが45歳で、村の兵事係では拒否され、連隊のある福井市に行く山を越えて行くところで、幼馴染の浦路洋子に再会するのはドラマだろうが、よくできた筋書きである。
大雪の中に消えてゆくところで終わり。
『不知火検校』と並び、勝新の「座頭市」を作り出した作品の一つだろう。
どちらも森一生と木村恵吾という、大映京都のベテラン監督であったことが大変に興味深い。
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