井上ひさしの新作はチェーホフの生涯を描いた『ロマンス』、演出栗山民也。
チェーホフの妻となる女優オリガは大竹しのぶ、チェーホフの妹マリヤが松たか子、チェーホフ自身は、井上芳雄、生越勝久、段田安則、木場勝巳が少年期、青年、壮年、そして晩年を演じる。
大竹と松の初対決で注目された本作だが、二人の対決はあまりなく、今回は一応大竹の貫禄勝ちということか。
ロシアの貧しい商人の息子で生まれたチェーホフは、モスクワ大学を優等で卒業し、医者となるが、少年のときからボードビルが大好きで、生活のために滑稽小説等の雑文を書いている。
最初の劇『イワーノフ』は不評で、『かもめ』もペテルブルクの古い演劇人には不評だっが、モスクワのスタニスラフスキーやダンチェンコ等の若い連中には大変支持され、彼らや女優オリガに演じてもらい、大好評を得る。
そして、『三人姉妹』『桜の園』と名作を書き、ロシアで最高の作家になる。
だが、肺結核が腸に転移し、わずか44歳で死ぬ。
スタニフラフスキーと言えば、大学時代さんざ読まされたので、実に懐かしかったが、彼の家が大富豪だったと言うのは聞いていたが、ロシア中の金モールを一手に引き受ける店だったのは初めて知った。
チェーホフが彼の劇を「喜劇」と呼んでいたのは有名だが、これほどにボードビルにこだわっていたとは知らなかった。
チェーホフの劇は、日本の作家に大きな影響を与えていて、例えば谷崎潤一郎の大傑作『細雪』も『三人姉妹』からヒントを得ていると私は思う。
世田谷パブリックシアター。
猛暑の中バスで、渋谷に出て飲んで帰る。
暑い日だったが、幸福な時間だった。