この小説の映画化には、田中絹代監督の1962年のにんじんくらぶ作品があり、有馬稲子主演でなかなか立派なできだった。
なぜ、1978年に熊井啓が、この話を取り上げたのかは分からないが、多分三船敏郎と『黒部の太陽』あたりでの付き合いからだろう。
三船敏郎が、太閤秀吉、志村喬が千利休を演じ、武闘派と文化派との対立がドラマの軸。
前作では、有馬稲子の悲劇のみに焦点が当てられていたのとは対照的。
前作では、お吟の義父千利休は、中村鴈次郎で、やや軟弱な感じがした。
美術の木村威夫さんの本を読むと、この映画は宝塚映画だが、企画は関西芸能界のボスだった松本常保で、彼は松竹と関係が深いので、撮影は宝塚の他、松竹京都、さらに大映京都も使ったので、障子の作り方などそれぞれに細かい違いがあり、それを合わせるのが大変だったそうだ。
秀吉の「金の茶室」は、金紙を貼って作ったというのだから、笑えるが、結構それらしく見える。
音楽が伊福部昭で、当時のキリシタンの音楽を大変上手く再現している。
熊井啓は、あまり好きな監督ではないが、これはできが良いと思うが、やはり三船と志村の力だろう。
少なくとも、鑑真和上が日本語を堂々と話すので、驚くしかなかった『天平の甍』よりは、はるかに良い。
お吟の中野良子を有馬稲子に比較するのは、可哀想というものだろう。
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