ここで、素晴らしき男性とは、勿論石原裕次郎のことだが、世の中の女性にとって「素晴らしき男性」とは、「金や地位、男前や学歴でもなく、すぐ近くにいて本当に愛してくれる男だ」と言うのが、大衆映画であるこの作品のメッセージである。
昭和33年、当時は皇太子の天皇も正田美智子さんと恋愛されていた時期で、日本中が「恋愛結婚が正しく、家や金や地位による結婚は間違い」と信じ込んでいた時代の産物。
当時の日活スターの総出演で、女性は月丘夢路と北原三枝、その姉が山岡久乃、男優は裕次郎の他、待田京介、柳沢真一、笈田敏夫、西村晃、金子信夫、少し古いが田端義雄やキドシン(木戸新太郎)らが出ている。
主要部分はミュージカルで、音楽とダンス、バレーのオンパレード。
メトロ劇場(有楽町の日活会館の外観が使われている)の踊り子北原三枝の恋物語。
貧しい北原は、金持ちと結婚を夢見ていて、富豪三島雅夫の息子待田と婚約するが、本当は劇場の演出助手裕次郎が好き。
最後は、不幸な結婚に破れた月丘に促されて北原は、演出家裕次郎を選ぶと、実は裕次郎は待田の兄で、彼も金持ちの息子だった。
全体に、井上梅次のアメリカ映画への憧れが強い。
同時にこの映画は、石原裕次郎・北原三枝の大ヒット作『陽の当たる坂道』を逆にしたものであることが分かる。
『陽の当たる坂道』では、北原は当初は兄の小高雄二に惹かれるが、偽善者であることに気づき、弟の裕次郎と結ばれる。
ここでは、関係は正反対になっている。
この辺は、兄弟、姉妹のどちらの観客にも受け入れられることを狙った日活の企みだろうか。
ショーの構成は、戦前からのジャズ・ピアニストで、後に日活スター和田浩冶の父の和田肇。
衣装デザインは当時松竹大船にも出入りしていたデザイナーの森英恵。
ともかく、ジャズ、ダンス、ミュージカルと、それまでの日本映画にはなかった素材を十分に用いた井上梅次の斬新さを感じさせる作品である。
この後、監督の井上と月丘は結婚し、月丘は一時期映画界を引退する。
しかし、月丘夢路は美人だ、実に惚れ惚れとする。